事故物件であることを隠して不動産一括査定を利用することはできますか?

事故物件であることを隠して、不動産一括査定後に売却までできますか?または不動産会社が事故物件であることを隠したまま、売却を手伝ってくれることはありますか?

夫が仕事の人間関係を苦に、自宅マンションで自殺をしてしまいました。自宅にいると思い出してしまうため、自宅マンションを売ってほかのマンションへ買い替えを検討しています。

まず、ご相談者様のご主人様におかれましては、心よりお悔やみ申し上げます。ご相談者様の心の傷はなかなか癒えるものではなく、思い出がたくさん詰まったマンションをお売りになりたいお気持ちをお察しいたします。

ご相談者様は事故物件となってしまったマンションについて、その事実を隠して高値で売却したいとのこと。不動産一括査定サイトを利用するだけであれば、事故物件であることを伏せることも可能です。しかし売却となると、ご相談者様自身が重大な罪を犯す結果になります。

これは不動産売買において、売主に瑕疵担保責任(※1)が課せられると民法で定められているためです。また宅建業法においても、民法の定めより買主に不利になる特約をつけてはならないとされています。

※1瑕疵担保責任
民法において、買主が注意を払っても確認することができない隠れた瑕疵(欠陥)について、売主が説明・修復などの負担を負う責任のこと。瑕疵が売主による故意のものでなくても、売主に責任が課せられる。

売主が物件の瑕疵(欠陥)を隠して売却しても、その瑕疵があることで買主の生活に支障をきたす事案があれば、責任追及期間において売買契約の解除は免れません。また、買主は売主に損害賠償を請求できるのです(買主が瑕疵について了承した場合を除く)。つまりご相談者様が事故物件である旨を隠してマンションを売却されたとしても、発覚した場合には確実にご相談者様が不利になります。

ちなみに民法では、瑕疵担保責任が売主に及ぶのは、買主が瑕疵を発見してから1年以内に申告した場合です。ただしこの規定は任意であり、売主と買主の間で変更もできます。たとえば、買主が物件を購入してから5年後に柱の破損を発見したとしても、これが購入時からあったものか購入後の経年劣化によるものなのか判断がつきません。

そのため、一般的に瑕疵担保責任の追及期間は引き渡しから3ヶ月前後などと決められることがほとんどです。しかしこれは、あくまで売主が事実を知らなかった場合、また物理的な瑕疵があった場合に適用されるもの。ご相談者様のケースのように、事故物件のような心理的ダメージについて、ご自身が認知しながら隠した場合にはきちんと瑕疵担保責任が追及されるでしょう。

さらに宅建業法では、不動産売買における重要事項を当事者に必ず告知しなければならないとする告知義務の規定があります。告知義務は、売主と不動産会社両方に課せられるルールです。ご相談者様が不動産会社と共謀して事故物件の旨を買主に隠したとすると、両方に告知義務違反が認められ、買主は売主と不動産会社いずれにも損害賠償を請求できます。

そのため、事故物件である旨を隠して告知義務を怠ることは、不動産会社にとってはリスクが大きすぎるでしょう。共謀し隠蔽するのは難しいと思ってください。

「それなら不動産会社にも事実を隠せばいい」と思われがちですが、事実を不動産会社が発見した場合は、不動産会社との間に交わした契約違反となります。場合によっては不動産会社から違約金の請求を受けるかもしれません。

さらに自殺のような事故は、近隣の方々も周知している可能性が非常に高いです。近隣住民の話などから、事故物件であることはすぐに買主や不動産会社に伝わると考えられます。そのため、売主たるご相談者様が瑕疵担保責任および告知義務の追求を免れることは、ほぼできないでしょう。

ちなみに物件における瑕疵とは、物理的・環境的・心理的・法的とそれぞれの条件に分けられます。ご相談者様のマンションのように自殺が起こった事故物件に関しては、購入者や近隣住民の心理的に大きな影響を与えるものであることから、心理的瑕疵が認められます。

種類 内容
物理的瑕疵 物理的に重大な欠陥のある不動産 雨漏り、ひび割れ、耐震基準を満たさない、シロアリ、地盤沈下、土壌汚染 など
環境的瑕疵 周辺環境に問題がある不動産 騒音問題、悪臭問題、日照・眺望が悪い、近辺に暴力団員が居住している など
心理的瑕疵 そこで起きた出来事によって嫌悪感や心理的抵抗を覚える不動産 自殺があった、殺人事件があった、死亡事故があった、火災事故 など
法的瑕疵 法令により自由な利用ができない、または法令違反の不動産 計画道路指定を受けている、市街化調整区域内である、建蔽率や容積率の違反 など

心理的瑕疵については、経年劣化などの物理的瑕疵のように明らかに住めないといった基準がなく、感じ方は人それぞれです。そのため、告知義務期間について明確な定めはありません。しかし事故物件に関するトラブルは、過去に何度も裁判が行われておりその判例も様々です。

たとえば都市部のマンションで、地域住民の入居・退出といった流動性が高く、事故から数年経過して心理的瑕疵が風化されていった場合には、告知義務を追求されないケースもありました。逆に、ある物件で凄惨な殺人事件が起き、地域的にも人の出入りが少なく心理的負担が強く残っている場合、その事件が数十年前でも心理的瑕疵が認められたケースもあります。

ご相談者様のケースにおいて、どのように判断されるかを一概に明言することはできません。しかし、いずれにせよ告知義務は免れず、事実を隠蔽した場合には損害賠償請求を受ける可能性が高いと覚えておくのが得策です。

事故物件だからといって必ずしも売れないというわけではありません

これまでご説明したように、事故物件である旨を隠してマンションを売却することはおすすめできません。ご相談者様は、おそらく「事故物件と明かしてしまうと売れないのでは」と危惧されているのではないでしょうか。

しかし事故物件だからといってその物件が全く売れないかというと、決してそうではありません。条件によっては、売却できる可能性も十分にあるのです。その理由としてまず、事故物件は市場相場から価格をある程度下げて販売されることがあげられます。

自殺による心理的瑕疵が認められる物件の場合、だいたい3割前後の値引きが行われるのが一般的です。もちろん、事故物件であること自体で購入を拒否する買主もいますが、なかにはできるだけ安く物件を手に入れることを優先する人もいます。

また前述で少し触れたように、心理的瑕疵の感じ方は人によってそれぞれです。事故物件であることをあまり重く受け止めず、安ければ問題ない、もしくは魅力的な物件であれば気にしないといった人もいます。さらに、ある程度年月が経てば心理的瑕疵も薄れ、値下げ率を多少低くすることも可能です。

しかしご相談者様は、ご主人が亡くなられた辛い思い出から早く解放されたいかと推測されます。迅速な取引を求めるのであれば、やはり3割程度の値下げは覚悟しておいたほうがよいでしょう。ご相談者様のマンションについて、築浅や駅近といった好条件がそろっている場合は、その限りではありません。

事故物件を売却するなら、親身になってくれる不動産会社を選ぶのがポイントです

ご相談者様は、事故物件となったマンションの売却に不安を覚えておられます。だからこそ不動産会社に売却の仲介を依頼する場合は、適切な不動産会社を選ぶことが大きなポイントとなるでしょう。

まずは、事故物件の取り扱い実績が豊富な不動産会社を調べてみてください。このような不動産会社であれば、事故の内容から考えられる心理的瑕疵の度合いや事情、地域性など、さまざまな要素をもとにマンションの価値を査定してくれます。そしてご相談者様の心痛に寄り添って、できるだけ早く売れる方法を探してくれるはずです。

また、大手不動産会社は利益を優先する傾向があるため、売れにくく価格も下げなければならない事故物件の取り扱いを渋る可能性があります。ご相談者様の地域事情により詳しい、中小規模の不動産会社に相談するのが得策です。

より親身になって事故物件の売却にあたってくれる不動産会社を探すには、不動産一括査定サイトの利用をおすすめします。サイトによっては大手のみと提携しているものから、中小を含む全国各地の不動産会社1,000社以上と提携しているものまで様々。ご相談者様に最適と思われるのは、後者のサイトです。

多くの不動産会社と提携している不動産一括査定サイトなら、ご相談者様のマンションがある地域に長けた中小会社も参入しているでしょう。そのような不動産会社をいくつか選んで、査定を依頼してみましょう。

このとき、注意したいポイントがいくつかあります。まずひとつに、不動産一括査定サイトに物件の情報を入力する段階から、備考欄に事故物件である旨を隠さず記載することです。冒頭で申し上げたように、事故物件であることを明かさなくても不動産一括査定サイトは利用できます。そうしておおよその価格を知ることも可能ですが、事故物件は市場相場の3割減程度の価格で取引されるのが一般的です。そのため、本当に売れる価格を提示してもらうには、事故物件であることを正直に伝えなければなりません。

また不動産会社によっては、事故物件に詳しくなかったり、また取り扱いを渋ったりする可能性もあります。こうした会社では、査定結果をご相談者様に伝えるメールでの対応がぞんざいである、また査定額をかなり低く見積もられてしまうなどといったことが起こり得るでしょう。査定結果を伝えるメールが来たときには、文面から誠意を感じられる会社を取引候補に選んでみてください。

また事故物件に詳しい会社なら、心理的瑕疵の度合いによる値引き率もおおよそ把握しているはず。複数社の査定額はだいたい同様のラインになると考えられます。ここで、極端に安い価格を提示した会社は避けるようにしましょう。自殺による事故物件の価格を、市場相場の半分以上値引きするケースはおおよそ考えにくいです。もちろん状況や地域性にもよりますが、簡易査定の段階で極端に安い価格を提示する不動産会社にはご注意ください。

そして不動産一括査定サイトから不動産会社を1社選び、媒介契約を行うときは、専任媒介契約(※2)もしくは専属専任媒介契約(※3)を結ぶようにします。

※2専任媒介契約
不動産会社と締結する媒介契約のなかで、競合会社と複数取引をするのではなく1社のみと取引を行える。ただし、売主が自ら買主を見つけて直接取引することは認められている。
※3専属専任媒介契約
専任媒介契約の条件のなかで、買主も必ずその会社と仲介契約を結ぶ必要があるもの。
種類 一般媒介契約 専任媒介契約 専属専任媒介契約
他業者への売却依頼 可能 不可 不可
自分で買主を探して直接契約 可能 可能 不可
契約の有効期間 無制限 3ヶ月 3ヶ月
不動産会社の報告義務 なし 2週間に1回以上 1週間に1回以上
レインズへの登録義務 なし 契約日から7日以内 契約日から5日以内

不動産会社と一般媒介契約(※4)を結んだ場合、売主が他社と取引する可能性があることから、不動産会社はあまり親身に売却活動を行ってくれない可能性もあります。一方の専任媒介契約・専属専任媒介契約では、不動産会社が売主だけではなく買主からも仲介手数料を受け取れる確率が高く、売却活動に積極的になると考えられるのです。

※4一般媒介契約
媒介契約のなかで、売主が複数の会社と媒介契約を結ぶことを認められており、買主候補の条件などから最終的に1社との取引に絞ることができる。

このためご相談者様ができるだけ早くマンションを売却したいとお考えであれば、専任媒介契約か専属専任媒介契約を選ぶことをおすすめします。

早期にマンションが売却できなかったときのために、買取も視野に入れましょう

上記では、不動産一括査定サイトを利用して不動産会社を見つけたあと、媒介契約を結んでマンション売却を行う方法をご説明しました。しかし、この流れで不動産会社に仲介を依頼する場合、売却できるまでに時間を要することがあります。

一般的に、仲介でマンションが売れるまでの期間は3ヶ月が目安。しかし事故物件でないマンションでも、半年~1年以上売れないケースも見られます。事故物件となれば、なかなか買主がつきにくいことは想像に難くありません。

ご相談者様はおそらく、マンションを「高く売る」ことよりも「早く売る」ことを優先されていると推測します。そうであれば、買取を検討するのもいいでしょう。買取において物件の買主となるのは不動産会社であり、個人の買主が相手ではありません。この方法なら買主がつくまで待つ必要がなく、即時に不動産会社へマンションを売れるのです。

ただしマンションを買い取った不動産会社は、買主を探すために内装のリフォームを行ったり、ハウスクリーニングや設備点検などの管理を行ったりといった手間を負います。さらに売却にかかる諸費用も支払って手をかけた物件ですが、すぐに売れる保証もありません。

そのため買取の場合は通常、市場相場の3~4割程度低い価格で取引されます。これが事故物件であった場合にはさらに割り引かれ、市場相場の半額以下になってしまう可能性も否めないのです。ご相談者様がそれでもいいというのであれば、買取は一番手早くマンションを手放せる方法かと思います。

マンション買取の場合にどれくらいの価格がつくのかについては、やはり不動産一括査定サイトで知ることが可能です。サイトのなかから買取査定を行っているところを選び、事故物件である旨を記載したうえで査定を依頼してみましょう。ぜひご相談者様が納得のいくマンション売却を行い、新しい一歩を踏み出す足がかりとしてください。