AI(人工知能)を使った不動産査定の査定精度は高いのでしょうか?

最近AI(人工知能)を使った不動産査定というものをネットで見かけるようになりましたが、精度は高いのでしょうか?また、信用できるのでしょうか?

50代男性です。自分が所有しているマンションにどれくらいの査定額がつくものか興味があって調べています。

近年、不動産業界の流れとしてAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などのテクノロジーを駆使し、ビジネスを透明化する不動産テックが注目されています。そのなかでもAIを使った不動産ビジネスとしてあげられるのが、ご相談者様のおっしゃる不動産査定サービスです。

不動産査定には、不動産会社が直接物件を見て行う訪問査定、過去の取引実績などから査定する机上査定(簡易査定)といった方法があります。インターネットの普及以降増えてきた不動産一括査定サイトやAIによる不動産査定サービスは、机上査定によって査定額をはじき出すものです。

では、不動産一括査定サイトとAIを利用した不動産査定サービスでは何が違うかというと、「査定を行うのが人力かAIか」という点です。不動産一括査定サイトでは、サイトに登録している不動産会社の担当者が、物件情報をもとに査定します。一方のAIは、該当の物件について不動産情報を網羅したビッグデータから分析を行い、平均的かつ公平な査定額を瞬時に導き出す仕組みです。

不動産におけるビッグデータとは、地価や過去の取引実績、市場価格だけではなく、周辺地域の情報や顧客のニーズ、取引傾向などじつにさまざまなデータを集約しています。これらのデータをAIが分析して現在の査定額を出すほか、未来の価格推移といった試算を行うことも可能です。

つまりAIを使った不動産査定は、今物件を売却したい人はもちろんのこと、不動産投資を考えて将来的な収益を計算したい人にも便利といえます。さらにAIが算出する査定額は、不動産会社の担当ごとに異なる見解や会社の営業方針などに左右されません。透明性が高く、ある程度信用に値するでしょう。

そこで、ご相談者様が疑問に思われているAIによる不動産査定の精度についてですが、比較的実勢価格に近い金額を算出できるとされています。実際に不動産のプロが査定した金額との平均誤差は5%前後ともいわれており、またサービスによってもその誤差率は異なります。

この誤差率を考えると、AIによる不動産査定は、市場相場の参考にする程度なら十分価値はあるでしょう。もしご相談者様が不動産をお持ちで、すぐの売却ではなくとりあえず市場相場だけでも知りたいというときは、利用してみるのも一案です。

また、ご相談者様が不動産投資をお考えの場合は、AIの分析力が強い味方になるかもしれません。AIを使った不動産査定サービスでは、将来的に物件がもたらす収益の計算を行うものもあります。さらに運用の際のキャッシュフローや、ランニングコストなども含めてデータを提供してくれるサービスも見られ、投資シミュレーションとして使うことも可能です。

ここで、AIを使った不動産査定のメリットとデメリットを簡単にお教えしましょう。

AI不動産査定のメリット AI不動産査定のデメリット
・膨大なデータをもとにしており透明性が高い
・結果が出るまでスピーディ
・一般の利用者でも情報を集めやすい
・査定額に誤差が出やすくあくまで参考にしかならない
・物件一つひとつの細かな特徴は把握しきれない
・地方の不動産には使えないことも

まずAIによる不動産査定は、データをもとにし透明性が高いほかにも、結果が出るのがスピーディです。サービスを提供しているサイトやアプリで物件の情報を入力し、送信すれば数十秒で結果を提示してくれます。そのため、サクッと結果だけを知りたいというときには便利なツールです。

また、不動産情報はえてして一般の顧客に開示されないものも多くあります。不動産業界では、関係者が参照できるデータベースとしてレインズ(※1)が共有されていますが、この情報は基本的に一般人が閲覧することはできません。

そのほか各不動産会社では、必要な情報以外の開示を行わないことも多く、査定額を含め不動産情報は不透明なものです。その慣例を破る動きの1つが、AIによる不動産査定であり、一般人でもさまざまな情報を得られることはメリットでしょう。

この様々な情報とは、単純に該当物件の市場価格だけではなく、周辺の同等物件の価格や環境情報、過去の価格推移・未来の価格予測などです。これらの情報をPCやスマホで手軽に確認できると、売主も売れ筋予想を立てられますし買主も購入の参考にできます。

一方デメリットとしては、真に正確かつ適正な査定額を算出するのは難しい点があげられます。詳しくは後述しますが、ビッグデータから分析するAIの精度が高くなったとしても、物件ごとの細かな特徴までは把握しきれないことがその理由です。本来は高く売れる物件も安く査定したり、その逆の査定を行ったりというケースも考えられます。そのため、査定結果はあくまでも参考価格としてとらえるのが無難なのです。

さらにサービスによっては主要都市部しか対応できないことも多く、地方の物件にはそもそも使えないパターンもあります。取引実績があまりない地域ではデータを集めにくく、AIの学習能力をもってしてもデータ不足で、適正な価格を算出できないなどもデメリットです。

※1レインズ
全国4つの不動産流通機構により運営されるデータベースで、不動産会社は専任媒介契約・専属専任媒介契約を結んだときに、その不動産情報を登録する義務がある。

本当に適正な査定は、物件の状況を人の目で確認しないとわからない面が多くあります。

前述のように、AI(人工知能)を使って不動産査定を行った場合、膨大なデータの分析により査定担当者ごとの見解の違いなどに左右されない、公平な査定額を得られます。その一方で、「データしか参照できないシステム」と言い換えることもできるでしょう。

不動産ビッグデータには、物件それぞれの細かな特徴や状況までは組み込まれていません。たとえば古いマンション内の同等の部屋でも、フルリフォームされている部屋があったり、事故物件であったりなどの情報は、データだけで知ることはできないのです。

そして、このような特別な事情や状況がある部屋は、総じて市場相場よりも価格が上下しています。つまり該当の物件が持つ特徴や状況、諸事情までをAIだけではフォローできず、正確な査定額を算出できない場合もあるということです。

また、AIが過去の取引価格を参照するとき、あくまでその価格だけをピックアップしますが、その価格にも事情が絡んでいることがあります。たとえば不動産会社が売主から直接買い取った物件は、買主に販売するまで管理などの手間や広告費がかかることから、市場相場の7割前後で取引されるのが一般的です。

この価格をそのまま参照した場合、やはり正確な市場相場から誤差が出ることは想像に難くないでしょう。こうしたケースは、不動産のプロが自ら情報収集するしかありません。AIの不動産査定の精度は上がりつつありますが、やはりまだ不動産のプロを超えることはできていないのが実情です。

実際に、AIの査定額より不動産会社の査定額が大幅に上回った例もあります。とあるマンションにおいて、市場相場では新築販売時の価格の10%減程度であり、AIでも相応の価格がはじき出されました。

しかし、該当の部屋はフルリノベーションに加えてハウスクリーニングを行っており、新築同様に綺麗に使われた部屋だったのです。この点をアピールポイントとし、価格を新築販売時の5%まで引き上げて売却活動を行った結果、見事に売却に成功しました。

また、マンションの市場価格は2013年ごろから上昇傾向にあり、東京都心にほど近い地域の市場価格は高騰しています。2013年はちょうど日本銀行による金融緩和が発表され、住宅ローン金利の引き下げによりローンを組みやすくなる傾向が現れました。さらに2013年は、東京オリンピック開催が決定した年でもあります。

(引用:不動産投資と収益物件の情報サイト健美家「収益物件市場動向マンスリーレポート2019年3月期」)

これらの背景により、マンションの価格は上昇を見せ始めましたが、過去の取引事例だけでこの価格高騰はなかなか予測できません。その結果、都心部に近く利便性の高いマンションが、AIが導き出した査定額よりも高く売れたという例もあります。

不動産一括査定サイトと併用して、より詳細な情報を収集しましょう。

どのような不動産にも、データだけではわからない特性があります。ご相談者様は不動産価格にご興味をお持ちとのこと。もし不動産の売却をお考えであれば、AI(人工知能)による不動産査定で市場相場をざっくり把握したあとに、不動産一括査定サイトを利用することをおすすめします。

不動産一括査定サイトで複数の不動産会社から査定見積りをとると、おおよそは市場相場に沿っているものの、会社によってばらつきのある査定額が提示されるでしょう。なかには契約をとりたいがために、飛びぬけて高い金額を提示する会社もあります。

そこで、事前にAIによる不動産査定でだいたいの市場相場を知っていれば、極端に高い・安い査定額をつけた不動産会社が浮き彫りになるはずです。ご相談者様も把握されているとは思いますが、売却額が相場より高ければ買主がなかなかつかず、安ければ売主が損をすることになります。

不動産は、高すぎず安すぎない「適正価格」で売却しなければなりません。その適正価格を決める際に役立つのが、AIによる不動産査定と不動産一括査定サイトによる相見積りの併用といえます。

不動産一括査定サイトを利用したあと、取引を行う不動産会社を決めて訪問査定を受けてください。

AI(人工知能)による不動産査定で物件の市場相場を知り、不動産一括査定サイトで適正な査定額をつけた不動産会社を見つけたら、さらに詳細な査定をしてもらいましょう。この際は不動産会社の担当者が直接物件を見て、物件の特徴や状況を把握する「訪問査定」を依頼する必要があります。

前述のように、その物件が持つ特別な事情も含めて、現時点では人の目で直接見ることによる分析に勝るものはありません。そのため、AIによる不動産査定サービスと不動産一括査定サイトを併用しただけで物件の売却価格を決めるのも、時期尚早といえます。

AIによる不動産査定は、あくまでデータのみを参照した簡易なもの。そして不動産一括査定サイトで不動産会社が行う査定も、地域や数値といった物件情報をもとにした机上査定なのです。これらの査定方法では、やはりその物件の特徴や状況をとらえた査定額を出すのは難しいでしょう。

最終的には、不動産のプロに訪問査定を依頼するのが得策です。また、実際に物件を見た担当者から売却に関するアドバイスを受けることもでき、より高く売れる売却時期なども教えてもらえるかもしれません。

「それなら最初から訪問査定を受ければいいのではないか?」とも思えますが、事前にAIによる不動産査定および不動産一括査定サイトを利用することは、決して無駄になりません。事前に市場価格を把握しておき、そのうえで訪問査定を利用することで、担当者の査定額が適正かどうかを判断する材料になります。

ここで注意したいのは、訪問査定により詳細な査定額をつけてもらったとしても、必ずその金額で売れるとは限らない点です。もちろん、本格的に売却活動に乗り出す際には訪問査定による査定額をもとにしますが、売主の希望や売却活動の進捗などにより、査定額よりも売却額が上下することもあるでしょう。

最後は買主との価格交渉により売却額が決定するため、査定額と売却額に差が出ることもあります。このため売主が事前に市場価格を調べたうえで、「この価格で売りたい」という基準を設けるのも大切なポイント。そうすることで、極端に安い価格で売ることになってしまったなどの事態を避けられるはずです。

不動産売却は大きなお金が動くものですから、しっかり計画を練りましょう。

今回説明したように、AI(人工知能)は物件の価格について公平な査定額を出せますが、物件の細かな特徴などは不動産のプロでないと見抜けません。AIの精度は、まだまだ十分とはいえないでしょう。

とはいえ、査定結果をまったく信用できないわけではありません。不動産売却をする前の参考として利用するのは有効ですし、まずは物件がどれくらいの価格になるか大まかに知りたいというときにも活用できます。さらに不動産一括査定サイトを併用すれば、物件の適正な査定額を知ることもできるでしょう。

ご相談者様が不動産を売却されるときは、ぜひAIによる不動産査定・不動産査定一括サイト・訪問査定を順に受けてみてください。ご自身が物件の適正な売却額を理解していれば、売却したときの収支を計算でき、資金計画をしっかり立てたうえで売却活動が行えるはずです。その際は、納得のいく取引ができることをお祈りしております。