川崎から名古屋へ初めての転勤で、持家(一戸建て)は貸したほうがいいのか、それとも売却がいいのでしょうか?せっかく買ったマイホーム、手放してしまうのはもったいない気もします。このような場合、皆さんはどうしていますか?
Aさん:男性 49歳
家族構成:妻 42歳 子供(21歳、18歳)
所有不動産:築8年、川崎市内の一戸建て(間取り 5LDK)
今回のご質問者様は、メーカーにお勤めのAさんです。奥さんは現在専業主婦で、お子さまは2人とも大学生のため、東京都内で下宿をしています。今回は、夫婦2人での移動とのことでした。
Aさんの場合、長期間勤続してからの転勤となります。転勤族でしょっちゅう転勤を繰り返している方なら、不動産を購入することをためらってしまうでしょう。しかしAさんは、入社して20年以上たってからの転勤でした。さらに今回の転勤では名古屋への転勤となるため、定年まで川崎に戻れる可能性は低いと感じているようです。
家を売却しようかとも考えていますが、家があるのは、Aさんと奥さんの出身地である川崎です。できれば定年後、生まれ育った地元に戻りたいという思いもあるとのこと。このような場合、家を売却したほうがいいのか、それとも貸したほうがいいのでしょうか。
家を売却することと貸すこと、それぞれのメリット・デメリットを見ながら、どちらがお得かを検証していきましょう。
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そもそも住宅ローン返済中に賃貸にしても大丈夫?
住宅ローンの利用は、本人やその家族が住むための家を購入するときに限られるケースが多いため、一般的に住宅ローンが残った状態で賃貸として貸し出すことはできません。
ただし、今回のご質問者さんは、「転勤による引っ越し」というやむを得ない事情があるため、賃貸としての利用が認められる可能性があります。金融機関によって対応が違うため一度確認してみてください。もし金融機関からの許可が下りず、それでも賃貸として利用したいのであれば、ローンの借り換えをする必要があります。
売却と賃貸どちらがお得?
今回のご質問者様のケースでは、家を売却するより賃貸に回した方がメリットは大きいかもしれません。ただし、タイミングや、本当に定年後に地元へ戻るのかという点も大きく影響してくるため、「こちらを選んだ方がお得です」と一概には言えません。
家の売却と賃貸それぞれのメリット・デメリットやポイントをしっかり把握し、その知識をもって家族で話し合いの場を設けるなどされることをお勧めします。
家を売却した場合のメリット・デメリット
まずは家を売却するメリット・デメリットを見ていきましょう。
【メリット】
・固定資産税を支払う必要がなくなる
・買った時よりも地価が上がっていると売却益が手に入る
・現金が入ってきて、住宅ローンが清算できる(住宅ローンが残っている場合)
【デメリット】
・定年退職後に住宅ローンを利用して新たに家を買うことが難しい
・売却するにも期間がかかる
・不動産を売却したら、不動産譲渡所得税がかかる
・住宅ローンがある場合は、繰り上げ返済手数料が発生する
・住宅ローン残債がなくなっていれば、抵当権抹消手数料が発生する
・不動産会社への仲介手数料がかかる
・売買契約書にはる印紙代がかかる
メリットとしては「買ったときよりも地価が上がっていると、売却益が手に入る」という点を挙げました。バブル崩壊があってから、買ったときよりも不動産価値が高騰するという現象は激減していますが、少しずつ上昇してきていることも事実です。川崎なら尚更、買ったときよりも少し地価の値段が上がっている可能性があります。その為、買ったときとほとんど変わらない値段で売れたというのはよく聞く話です。
川崎市の地価の推移(公示地価)
西暦 | 公示価格(円) | 前年比(%) |
2005年 | 282,700 | -2.3 |
2006年 | 290,500 | 2.4 |
2007年 | 320,400 | 8 |
2008年 | 344,900 | 4.1 |
2009年 | 315,900 | -7.7 |
2010年 | 312,300 | -1.3 |
2011年 | 309,900 | -0.8 |
2012年 | 313,600 | 0.5 |
2013年 | 322,200 | 1.9 |
2014年 | 333,800 | 2 |
2015年 | 341,800 | 1.7 |
2016年 | 349,600 | 1.5 |
2017年 | 365,300 | 1.8 |
参照:川崎の地価情報(平成30年前期版)
また、住宅ローンや固定資産税から解放されるという点もメリットと言えるでしょう。
一方デメリットとしては、定年後に戻る家がなくなる、売却時に思ったより税金や手数料などがかなりかかることが挙げられます。固定資産税からは解放されるものの、不動産の売却益には「不動産譲渡所得税」という税金がかかるのです。また抵当権抹消手数料については、自分で登記簿謄本から抵当権を抹消する方もいますが、司法書士に頼むと印紙代プラス報酬もかかってきます。売却にも相応の費用が掛かるという点は覚えておきたいところです。
家を貸す場合のメリット・デメリット
次に、家を賃貸として活用する場合のメリットとデメリットを見てみましょう。
【メリット】
・転勤中は家賃収入があり、地元に戻ればまた住める
・空き家にしておくよりも、人が住むことにより家が傷みにくい
・資産を手放すことがないので、売却に関する諸経費はかからない
【デメリット】
・空室リスクがある
・固定資産税を支払う必要がある
・賃借人を見つける必要がある
・初期費用(リフォーム費用・クリーニング費用など)がかかる場合がある
・不動産管理を委託した場合は、管理会社に管理費用がかかる
今回のご質問者様は、「定年後は生まれ育った地元に戻りたい」という気持ちがあるようですから、その思いを優先するのであれば、まずは賃貸として活用するのが良いかもしれません。
賃貸の大きなメリットとしては、不動産資産を手放す必要がなく、さらに家賃収入も入ってくるという点です。もともとは自宅であるため、新たに不動産を手に入れなくても大家業を始めることができます。それも築浅の物件であれば、リフォーム代などの費用もかけずにスタートが可能です。少々築年数が経っている家であっても、そのぶん家賃の値段を下げるなどすると、借りたいという人は見つかりやすくなるでしょう。
今回、ご質問者様のケースでは一戸建て築8年ですから、マンションに比べて借り手の数が限られているため空室リスクは覚悟しなければなりません。不動産投資で失敗しないための鉄則は、「初期費用をかけない」という点。所有している不動産の現在の価値をしっかり把握して、それに見合った家賃設定することがとても重要です。
また賃貸として誰かに住んでもらうことで、家自体を保護できるという点もメリットです。家というものは、人が住まなくなると途端に傷みがでてきます。人が住んでいるほうがかえって傷みそうな気がするかもしれませんが、じつは真逆。テレビなどでクローズアップされている空き家問題を見てみると、人の住んでいない家は一目瞭然です。最低限の衛生観念を備えた賃貸人に住んでもらうなら、家の傷みの進行は遅らせることができます。
その一方で、賃借人を探す必要があるのはデメリットでしょう。Aさんは地元を離れ、県外に引っ越してしまい、日常には仕事もあるため、なかなか管理まで手は回りません。不動産会社に依頼をするのであれば仲介手数料が発生し、さらに管理してもらう場合には管理費もかかってきます。賃貸を考えるのであれば、不動産管理会社に賃貸人に関する募集と、管理を丸投げする方法が現実的です。その場合、おおよそ家賃の5%程度を手数料として支払う必要があります。
また不動産を持ち続けるのであれば、固定資産税も発生するでしょう。家賃収入はすべて自分の手元に入ってくるわけではなく、こういった税金や諸費用の支払いに充当する必要があります。
家を売却するポイント
関東近郊の土地の値段は上昇傾向
今回のご質問者の自宅所在地は、神奈川県川崎市です。昨今は関東近郊の土地の値段が上がってきています。川崎市は「東京都と神奈川県の玄関」とも言われていました。これまでは川崎市在住だと、市内で遊ぶというよりは、東京や横浜に出かける方も多く、川崎市はベッドタウンという感覚が一般的でした。しかし現在は、川崎駅前も横浜市に劣らないくらいの規模のショッピングセンターがあります。
東京に出るにも、横浜に出るにもアクセスが良く、さらに地元でも遊べる好立地といえるでしょう。2020東京オリンピックの開催の後押しもあり、川崎市はかなりの人気エリアとなっており、市内の一戸建ては大きな資産価値があるということになります。
東京オリンピックまでに売却したほうがいい?
不動産は、東京オリンピックまでに売却するのが一番高値で売れるとされています。つまり高値タイミングは2020年までということになりますが、川崎市などの東京近郊であれば、大幅に値動きがある可能性は低いでしょう。価格が安定した地域であり、何が何でも2020年までに売る必要はないと言えます。
賃貸経営のポイント
家具家電はそのままで賃貸にする
2019年現在、川崎市での一戸建ての家賃相場は、100㎡前後、築10年未満、駅から徒歩15分圏内で16万円程度となっています。住宅ローン残高があったとして、ローンと固定資産税、管理会社への管理料なども含めても黒字になる計算です。
転勤先に家具一式を持っていく方法もありますが、現状のまま賃貸に出せば「家具家電付き」としてより高めに家賃を設定しやすくなります。
賃貸用一戸建ては人気?
一戸建てに住みたいという人は想像以上にいます。自分で購入したかったものの金融機関のローン審査に通らない、または将来的に一戸建ての購入を予定している、自宅は絶対に賃貸派という方も少なくありません。賃貸物件に大きなメリットを見出す方は少なからず存在するのです。
とくにペットを飼っている方などは、ペット可のマンションを探すだけでひと苦労です。一戸建てであれば、多少の鳴き声があっても苦情がでることはありません。
しかしながら実際には、賃貸を募集している一戸建ての賃貸は少ないもの。駅やバス停から近いなどアクセスが良く、築浅の一戸建てはすぐに賃貸人が決まってしまいます。ある意味、一戸建て賃貸は人気物件とも言えるでしょう。
賃借人を付けたまま売却できるメリットも
自宅で賃貸経営を始める最大のメリットは、もし地元に戻って「いろんな人が住んだ家にまた住むのは、ちょっと抵抗がある」と思ったときに、賃借人をつけたまま売却もできるという点。居住用の住宅ということではなく、投資物件として売却する形です。投資物件の場合は、空き家よりも賃借人がいるほうが高く売りやすくなります。
空室リスクに注意
賃貸経営はメリットばかりではありません。最も懸念されるのが、空室リスクです。「定年後は自宅に戻りたい」となると期限を設定する必要が出てきます。こうなると借りたい人は絞られ、賃借人が必ずしも見つかるとは限らないでしょう。当然賃借人が見つからなければ家賃収入は得られず、管理費用や固定資産税ばかりがかかることになってしまいます。
あまりにも短時間で賃貸契約を解消されることを避けるため、賃貸借契約を締結する時点で、契約書に「1年以内に退去する場合は、退去に関する費用が必要」などペナルティを決めておくこともできます。しかし1年、2年とある一定の年数が経てば、賃貸人の引越しは基本的に自由です。このため賃貸経営は、常に「空室リスク」と隣り合わせになります。
どちらにせよ資産価値の把握が大切
家の売却と賃貸、両方に共通する重要なポイントがあります。それは「所有している物件の適正な価値を知ること」です。資産価値を知ってこそ、家を売るか貸すか、どちらのメリットが大きいのかが見えてきます。なぜならどちらを選択するにしても、立派な資産運用であるためです。
不動産はとても大きな財産にあたります。貴重な資産の価値を活かしきるには、どのくらいの価値があるのかキチンと把握しておく必要があるでしょう。
まずは資産価値を査定してもらおう
資産価値の査定は、不動産会社に依頼する方法が一般的です。ただしここで注意したいのが、不動産査定をお願いする不動産会社選びです。
地域にある不動産会社で相談してみる方法もありますが、不動産会社に家を「売りたい」「貸したい」旨を相談すると、不思議と近所の方にもわかってしまうことがあります。一般的に不動産取引とは、プライバシーを守って進めていくものです。しかし地域の不動産会社となると、売り手も買い手も地元の方になります。お互いの希望や情報が伝わってしまって、個人情報を守ることが難しくなりかねません。
また不動産会社の営業方針によって、その地域で家を欲しがっているお客さんがいる場合、売却に誘導されてしまう可能性もあるでしょう。
地域密着型の取引が問題ないのであれば、近所の不動産会社に相談するのも良いかもしれません。しかし「近所に引っ越しが決まるまで知られたくない」「プライバシーは守られたい」という方は、慎重に不動産会社を選ぶ必要があります。
不動産一括査定が便利
インターネットが普及した昨今、ネット上で簡単に不動産会社を探せるようになりました。検索サイトにアクセスしてみると、その地域の不動産のおおまかな相場などもわかるでしょう。
不動産一括査定サイトなら、物件の情報を入力するだけで、売却と賃貸に出した場合の両方の金額が算出されます。物件情報を入力する時間もたった数分ほど。また不動産一括査定サイトには複数の不動産会社が登録しているため、数社の売却価格や賃貸価格をまとめて比較できます。
まずは一番高い査定額を提示してくれた不動産会社に相談してみて、売却にするか賃貸にするかのアドバイスをもらいましょう。
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田中 真作
このページの補足コメント
家を売却することも賃貸にすることはいずれも「不動産活用」です。
端的な利益の計算だけではなく、将来設計を考慮してその活用方法を決めることが大切です。
どちらが得という結論ではなく、この先の人生設計のために、どのようにその不動産を活用していくべきなのかという判断が必要になってくるでしょう。
いずれを選択するにしても貴重な財産を後悔のないように活用していくことが重要です。