自己破産をする前に家(一戸建て)を親族へ売るのはありですか?

親族に協力してもらい、タダ同然で家(一戸建て)を売却した形とし、自己破産後に買い戻すという方法は資産隠しになりますか?

岡山県の50代夫婦 夫(タクシー運転手)妻(スーパーのパート)、生活費や浪費による借金が返済できず滞納しています。自己破産しかないことは理解しているが家(一戸建て)を何とか残したいと考えています。


自己破産は、破産者の破産財団(※1)の処分・換価を行う手続きを指します。ご相談者様の提案は、タダ同然で家を売る手続きをすれば、売却額は自由財産(※2)とみなされる可能性を見込んだものとお見受けしました。自己破産後に家を買い戻せば新得財産(※3)となり、処分の必要がなくなると考えたのでしょう。

※1破産財団
破産手続において換価処分の対象となる財産の総体で、破産管財人に管理・処分の権利が専属するもの。時価にして20万円以上とされている。
※2自由財産
破産法において、生活に必要な金額など破産者が自由に利用できる財産であり、処分の対象にならない。現金であれば99万円以下とされる。
自由財産の1つに数えられるもので、自己破産手続開始後に得た財産のこと。

しかし、不動産は所有時に管轄の法務局に登記手続きを行い、また自動車においても管轄の運輸支局に登録手続きを行っているはずです。このとき、不動産における登記識別情報には固定資産税評価額(※4)が示されており、自動車は登録から6年以内(小型車・普通車)であれば減価償却期間内であるため、価値が認められます。つまり、これらの財産と価値は法的に記録されており、実質隠匿することは不可能でしょう。

※4固定資産税評価額
各自治体が設定した固定資産評価基準に基づいて設定される不動産価値の指標の1つ。

これらの記録は債権者が簡単に調べることができ、債務者がどのような財産を持っていたかは一目瞭然です。さらに記録を遡ることで、財産についてどのような取引や移動が行われたかも明瞭になります。

そのためご相談者様の質問のように、タダ同然で親族に家を売る行為を行ったとしても、それが資産隠しであるとすぐに判断されるでしょう。そして自己破産において否認権(※5)が行使されることにより、不動産売買は無効となる可能性が高いと言えます。

※5否認権
破産者が破産手続前に行った行動を鑑み、破産管財人が手続きを否認する権利。

免責不許可事由とみなされると自己破産の免責がおりなくなるほか、犯罪にもなりえます。

さらに、ご相談者様が提案された行為は、自己破産における免責不許可事由に該当します。自己破産を行う際には、破産債権の支払義務について免責を受けられるため、借金や住宅ローンなどの債務から解放されることとなります。

しかし、この免責の許可を受けるには条件が必要で、その条件に反するものは免責不許可事由として定められているのです。免責不許可事由には、主に下記のようなものがあります。

免責不許可事由
①債権者の不利益を狙い、破産財団(※1)に属す、もしくは同等の財産の隠匿や損壊、破産財団の価値を不当に減少した場合
②破産手続きを遅らせるために、金融業者から非常に高利で借入を行う、またクレジットカードなどで商品を購入したあと、安価で売却するなど不利益な条件で債務負担・換金を行った場合
③特定の債権者への利益、もしくはその他の債権者に不利益を与えることを狙い、特定の債権者にのみ担保の設定や債務の返済などを行った場合(偏頗弁済)
④高額な買い物などの浪費、賭博を行って財産の減少、債務の負担を行った場合
※1破産財団
破産手続において換価処分の対象となる財産の総体で、破産管財人に管理・処分の権利が専属するもの。時価にして20万円以上とされている。

このうち自己破産前に家をタダ同然で売却し、のちに同様の価格で買い戻すことは1の免責不許可事由であり、資産隠しとみなされると考えられます。つまり、タダ同然で家を売ることは、破産財団に数えられる不動産の価値を不当に減少したと判断される可能性が高いでしょう。免責不許可事由が認められた場合、自己破産したが、借金はなくならないという状況になってしまします。

また、故意に破産財団の価値を減少させる悪質な行為は、刑法における詐欺破産罪に該当することがあります。詐欺破産罪にあたる行為のなかには、債務者が財産を譲渡する、もしくは譲渡したように見せかけることが含まれています。つまり、ご相談者様のお考えはこの行為にあたると考えられ、罪に問われる可能性が高いのです。

もし親族にタダ同然で家を売る方法で資産隠しを行うと、自己破産で借金の返済を免れることができない、またご自身が犯罪に手を染めることになるだけではありません。共謀した親族にも罪が及び、巻き込んでしまうことになります。親族に迷惑をかける事態を避けるには、資産隠しを行わずに正当な方法で債務整理をすることが重要です。

まず、家を売ることで売却額を借金返済に充てる方法を考えましょう

正当な方法で債務の返済を行うなら、まず家を売ることを考慮に入れて、いくらで売れるかを計算してみましょう。家を売ることで得た売却額は、債務の返済に充てることができます。また、売却額で債務を完済できれば、そもそも自己破産を行う必要がなくなるわけです。

さらに債務を完済したあとにも金額が手元に残るなら、その金額を元手に新居を探すこともできます。ご相談者様のお話のように、資産隠しのような違法行為を行ってまで家を残そうとするより、家を売って賃貸でも新居を探すほうが得策です。

また、家を売るならできるだけ早く行動に移すことをおすすめします。債務の返済が滞って再三の督促・催告に応じられないと、債権者によって家が差し押さえられてしまうためです。これで家が競売にかけられれば、売却額は本来の不動産価値の半分程度にしかならない可能性が高いでしょう。

つまり、競売にかけられる前に正当な手順で家を売ってしまったほうが、より債務返済に充てられる金額は多くなるのです。ご相談者様はすでに借金を滞納しているとのことですので、今すぐにでも家を売る準備を始めてみてはいかがでしょうか?

不動産のプロに家の価値を査定してもらいましょう

家を売って売却額を債務に充てる方法を検討されるということであれば、ここからは家の売却と債務返済のコツをお教えします。まず、家の売却額で債務をどれくらい返済できるかを計算するには、家がいくらで売れるかを知ることから始めましょう。

このとき査定の方法には大きく2つがあります。1つは、家の間取りや立地などの情報と不動産会社のデータを照らし合わせ、簡易的に査定を行ってもらえる机上査定。もう1つが、不動産会社の査定員が家を直接見て査定を行ってくれる訪問査定です。

どちらの査定方法を選ぶかは、ご相談者様の事情によるところも大きいでしょう。たとえば、不動産売却を行うことを近所の人に知られたくない場合や、すぐに査定額を知りたい場合は机上査定が有効です。一方、正確な査定額を知りたいということであれば、訪問査定が適しています。

なお、不動産会社に家の査定を依頼する場合には、複数社から相見積りをとるほうが賢明です。いくつかの不動産会社が提示したそれぞれの査定額を見ることで、おおよその市場相場を掴むことができます。このときに見極めたいのが、「相場よりも明らかに安い・高い査定額を出す不動産会社がないかどうか?」です。

他社よりズバ抜けて安い査定額を提示する会社は、市場相場を理解していない可能性があります。そしてあまりにも高い査定額を提示する会社は、やみくもに契約をとりたいがために査定をおざなりにしているかもしれません。きちんと納得できる不動産売却を行うには、少なくとも3~4社から相見積りをとりましょう。

家の査定額について、複数社から簡単に相見積もりを取るには、不動産一括査定サイトを利用すると便利です。家の情報をインターネットサイトで入力し、送信すれば査定額の提示を待つだけでよいため、査定方法としては机上査定の形となります。

不動産会社が直接訪問しないことから、近所に家を売ることを知られることなく査定できるのも、不動産一括査定サイトのメリット。水面下で債務の返済計画の概算を立てるのであれば、すぐに査定額を知ることができて複数社を比較可能な不動産一括査定サイトで、価格の相場を把握しましょう。

最も納得できる査定額を出した不動産会社が決まったら、不動産会社と正式に売却にかかる契約を行います。このとき、基本的には不動産会社に買主との契約を仲介してもらう「媒介契約」を結ぶことになるでしょう。不動産会社に仲介を依頼した場合、広告を出すなどして買主を見つける必要があります。

そのためすぐに売れるケースは稀で、少なくとも媒介契約を結んでから売買契約を結ぶまで1ヵ月くらいはかかってしまうのが一般的です。さらに、そこから買主の住宅ローンの審査期間も必要になり、実際に売却額を現金化できるのは数ヵ月後という場合もありえます。

家を売った売却額を債務返済にすぐに充てたい場合、現金化までに時間がかかる点はデメリットと言えそうです。ただし、不動産会社の仲介を得て買主と売買契約を行うと、その家の価値からほぼ減額なく売れる可能性が高くなります。

そして家を売る手続きが終了し売却額を現金化できた後に、債務の返済を行いましょう。気持ち的には一括返済したいと考えるかもしれませんが、滞納分に加えて毎月の支払分のみを一旦返済し、手元に現金を必ず残しておくようにしてください。特にご相談者様の収入は今後も不安定な可能性があり、不測の事態に備える必要があります。

少しでも早く現金化したい場合には、買取の方法が有効です。

不動産売却の方法には、前述のように不動産会社が買主との取引を仲介するほかに、不動産会社が買取という形を採る方法があります。不動産会社との媒介契約の場合、現金が手元に来るまで数ヵ月、もしくはそれ以上長期化するかもしれません。その点、買取なら不動産会社と売買契約をすぐに結ぶことができるため、すぐに債務の返済に充てられるのです。

ただし買取の場合は、仲介よりも査定額および売却額が安めになる傾向があります。不動産会社が家を所有したとき、買主が見つかるまで管理を行う必要があり、不動産会社にとってはリスクとなるためです。

不動産一括査定サイトでも、仲介目的のものと買取目的のものが存在し、それぞれに提示される査定額は異なります。そのため買取を前提として不動産一括査定サイトを利用するときは、買取査定とうたっているサイトを選んでみてください。

家を売っても債務返済できないとわかったときに、初めて自己破産や個人民事再生を考えてください

自己破産をするために資産隠しのような方法を採る前に、家を売ることを考えて債務返済を行うほうがリスクは少なくなります。そのため、まずは債務を返済することを優先させましょう。

ただし不動産一括査定サイトなどで家の価値を調べても、債務を完済できないケースも考えられます。このときに、初めて自己破産の手続きに移るべきです。家を売る方法、自己破産をする方法いずれでも家を手放すことになりますが、残念ながら家をそのまま残すことはあきらめたほうが得策です。

もし、どうしても今の家に住みたいということであれば、自己破産手続の前に家を売り、売却額を債務返済に充てた後に買主から賃貸の形で家を借りるという方法もあります。このときは、買主の了承が必要ですのでよく相談してみてください。

さらに自己破産ではなく個人民事再生の方法であれば、住宅ローン残債があるケースに限り、住宅ローン特則(※7)が適用されます。これは住宅ローンを残して返済を続け、残りの債務を整理すれば家を手元に残せるという特則です。ただし住宅ローンを完済している場合には家が財産となり、清算価値保障(※8)の原則により債務整理した後も高額の金額を返済しなければならない可能性があります。

※7住宅ローン特則
「住宅資金貸付債権に関する特則」のことで、債務整理の際に特別に住宅ローンだけを対象外とし、本来のローン残債を完済することで住宅を残せる特則。
財産をすべて換価したときの金額(清算価値)以上の金額の返済を債務者に求め、債権者への返済を保障するもの。

ご相談者様のご提案のような資産隠しにあたる行為は、自己破産できない・犯罪となる可能性が高くなるうえ、親族の方に迷惑をかけてしまうことにもなりかねません。そのような危険な方法よりも、家を売ることで堅実に債務を整理・返済することを考えましょう。