賃借人から福岡県(博多)の家を売って欲しいと言われました。正確な不動産査定の方法を教えてください。

転勤で福岡県(博多)のマンションを長い間賃貸していましたが、賃借人からこのマンションを売って欲しいという申し出があり、この際売るのもいいかなと考えています。現在は東京(渋谷)に住んでいるため、どのように不動産査定をお願いすればよいでしょうか?また、売却額など個人間取引でトラブルが起きるのは避けたいものの、不動産会社に仲介に入ってもらうと手数料が気になります。適切に不動産査定を受けて売買契約を進める方法を教えてください。

50代男性です。10年前に福岡(博多)から東京(渋谷)に転勤して、定年後も東京で暮らしたいと考えています。福岡(博多)に戻ることはないので正規の値段であれば売ってもよいと考えています。

ご相談者様は10年前に福岡(博多)を離れて東京(渋谷)に転勤し、その10年間マンションを賃借人に貸し出していたとのこと。そして、その賃借人へマンションを売却することをお考えです。

ご相談者様にしてみると、このまま東京(渋谷)への居住をご希望されており、福岡(博多)のマンションの買主が決まっている状態での売却はメリットでしょう。また賃借人からしても、住み慣れた家を買い取る形であれば安心して住み続けられます。また、リフォームなども自由に行えるため利点は多いはずです。賃貸人たるご相談者様と賃借人とのマンション売買は、双方にとってwin-winと言えます。

ただしご相談者様が賃借人にマンションを売却するには、いくつか注意が必要です。それは、ご相談者様と賃借人の間の個人間売買の場合、様々なトラブルが起こり得るということです。

まず考えられるのは、売買金額に関するトラブルです。ご相談者様は高く売りたい、賃借人は安く買いたいわけですから、そこに齟齬が生じて話し合いが進まない可能性があります。賃貸中のマンションを賃借人に売却する場合、価格の設定については慎重に行いましょう。

賃借人によっては「長く賃料を払い続けて住んでいたのだから、その賃料の累積を考慮して割引してくれるのではないか?」と考えているケースもあります。しかし賃貸マンションの価格について、そのような考え方をする必要はなく、あくまで物件の現在の価値から価格を決めるべきです。

賃貸物件の場合、通常の分譲マンションの不動産査定方法とは少し異なった方法をとります。それが収益還元法と呼ばれるもので、賃貸不動産の賃料から将来的に発生すると予想される純利益(収益価格)から不動産価値を算出する方法です。

収益価格に対し、過去の取引事例などを参考にして不動産価値を算出するのが積算価格であり、総じて収益価格は積算価格よりも安めの金額が算出されます。収益価格と積算価格の差異は、収益価格が積算価格の7割~8割程度となるのが一般的です。このように、収益還元法には複雑な計算式と条件が絡み、素人が適正価格を算出するのは困難でしょう。

賃借人が現在居住している物件を買い取る際、多くは賃貸人たるご相談者様との協議のうえで価格を決めることとなります。しかし、ご相談者様が通常の不動産査定どおりの価格を提示すると、賃貸物件としては相場よりも高くなり、売買における正当性に欠ける場合があるため注意が必要です。

もし、ご相談者様のマンションにどれくらいの価値があるのかをあらかじめ知りたい、また売却額を設定するための参考にしたいということであれば、不動産一括査定サイトを利用するのが便利です。不動産会社に直接依頼しない分、気軽に査定額だけを把握できますし、ウェブサイトを通して複数の不動産会社に提示された査定額で売却額の相場がわかれば、それをもとに賃借人との交渉も進みやすくなると考えられます。

ただし、売却額以外にも個人間トラブルが起こる可能性があります。賃貸人たるご相談者様と賃借人の間では10年間の取引があり、ある程度信頼関係も築かれていることから、個人間で取引すれば早いかもしれません。しかし、売買契約書はご相談者様と賃借人で作成しなければなりません。もちろん、双方とも不動産売買の素人ですから、作成するときにどのような項目を盛り込めばいいかわからないといった問題が起こりえます。また、登記手続きや重要事項説明などは難解で、素人同士で進めるのが難しいものです。さらに個人間取引の場合は、買主たる賃借人が住宅ローンの申請を行う際、銀行に認めてもらえないケースもあるのです。

ただしその場合、ご相談者様が承諾されれば割賦契約(不動産価格の分割払い)が可能とされています。この点に関しては、長年にわたり毎月の賃料を支払ってもらった信頼関係によるところも大きいでしょう。

とはいえ、やはり買主に住宅ローンを組んでもらい、ご相談者様には一括で売却金額を支払われたほうが、利があると考えられます。ご相談者様としても、定年後の東京(渋谷)での生活設計を立てやすくなるかもしれません。この点について、ご相談者様の説明だけでは賃借人に納得してもらえない可能性があり、結果的にトラブルにつながってしまうことも無いとは言い切れません。

トラブル回避のため、あえて不動産会社を挟むことも

ご相談者様と賃借人の間に長年の付き合いがあったとしても、いざ個人間売買となると様々なトラブルが起こることは十分考えられます。しかしご相談者様としては、信頼している賃借人とのトラブルはできるだけ避けたいものでしょう。そのためには、双方の間に第三者を挟むのが得策です。そこで役に立ってくれるのが、不動産会社です。

ご相談者様のように既にマンションの買主が決まっている場合、不動産会社に仲介に入ってもらうにしても、売買契約代行といった形にすることが可能です。通常、不動産会社の仲介は売却活動や売却額の交渉などが主な業務です。しかし、ご相談者様と賃借人の間で売買の合意があり、さらに売却額まできちんと双方で決められている場合、不動産会社が仲介して交渉する必要がありません。

とはいえ、前述のように素人では売買契約や登記手続き、重要事項説明に、買主たる賃借人の住宅ローン申請のサポートなど、素人だけでは進めにくい事案が多々あります。そこで、不動産会社に売買代行という形で仲介に入ってもらい、これらの手続きに関して代行を依頼すれば、ご相談者様や賃借人双方の手間がかなり省けるのです。さらに、第三者が間に入ることで個人間トラブルも避けることができ、双方にとって公平な取引ができるのではないでしょうか。

不動産会社に仲介(売買代行)に入ってもらうコツ

不動産会社に仲介(売買代行)を依頼するとき、気になるのは仲介手数料です。通常、不動産会社が売主・買主双方と媒介契約を結んでいる場合、不動産会社は最大で物件の売却額の3%+6万円の仲介手数料をそれぞれから受け取ります。この金額は、広告活動や売主、買主の売却額の調整などといった手間にかかるものです。しかし、これらが必要ないケースで通常の仲介と同様の手数料を取られてしまうのは、いささか納得がいかないところです。

ご相談者様のようなケースでは、仲介(売買代行)を依頼することで手数料について考慮してくれる不動産会社もあります。その裁量については、半額にしてくれるところもあれば、ほぼ代行手数料のみで請け負ってくれるところもあるなど様々です。一方で、利益を優先する方針の不動産会社であれば、仲介手数料の割引を考慮してくれない、またそもそも請け負うことを渋る会社もあるでしょう。

仲介手数料の割引を考慮してくれる不動産会社を探すには、不動産一括査定サイトを利用するのも1つの方法です。査定する際は売主が決まっている旨、また売却額は最終的にご相談者様が決める旨を備考欄に記載します。そして、手数料の割引について考慮してくれるかを質問してみましょう。不動産会社からの返信は、割引に応じられない旨を記載するところもあれば、相談に応じてくれるところもあると考えます。より手数料を抑えてくれる不動産会社を選ぶとよいでしょう。

こうして、仲介(売買代行)を依頼する不動産会社が決まれば、売買契約の代行を任せます。この時、本来であればご相談者様と賃借人が対面し、不動産会社の立ち合いのもと売買契約を交わす必要がありますが、東京(渋谷)と福岡(博多)に居住しているとのことですので、直接対面は難しいかもしれません。そこで、ご相談者様が福岡(博多)に出向かなくとも売買契約書を交わせる手段があります。遠方の不動産売買でよく用いられる「持ち回り契約」と呼ばれるもので、売主・不動産会社・買主の間で売買契約書を郵送して手続きを進める方法です。

ただし、遠方での売買契約でも、一度だけご相談者様が現地に出向かなければならないタイミングがあります。それが「売買価格の決済および引き渡し時」です。ご相談者様のケースでは、賃借人が引き続きマンションに住み続けることになるため、引き渡しは必要ありません。ただし決済時には、司法書士がご相談者様の本人確認・意思確認を行ったうえで売却価格の決済を行い、所有権移転登記手続きまで行うことが求められます。

もしどうしても現地に向かえないときは、福岡(博多)の司法書士に東京(渋谷)まで来てもらって本人確認・意思確認を行うことも可能です。

マンションのローン返済はお済みでしょうか?

ご相談者様に確認しておきたいのは、ご相談者様のマンションのローン返済が終了しているかどうかです。ご相談者様のケースに限ったことではありませんが、売却する物件のローン返済がまだ終わっていない場合、基本的に物件を売却することはできません。

売却するには、売却金額もしくは自己資金によって、売却時までにローンを完済できなければならないのです。更に住宅ローンを組んだ際に設定された抵当権に関しても、賃借人に売却する前に抹消する必要があります。

ひとまずご相談者様の不動産査定金額から、売却時の諸費用(仲介手数料や登記費用など)を差し引いた金額に自己資金を足して、ローン残債に達するか計算してみてください。特にご相談者様自ら売却額を決定する場合、売却にかかる諸費用をよく把握し、ローンとの兼ね合いを考慮することが求められます。ただし、前述のように不動産会社に支払う仲介手数料を割引してもらえる場合は、ご相談者様が負う負担がかなり軽くなると考えられます。

売却した際にかかる税金についてご説明します。

支払時期 税金 税率
売買契約時 印紙税 売却額により異なる
登録免許税 1,000円/物件

※土地つき建物であれば2,000円

消費税 8%
確定申告~ 所得税(譲渡所得税)

※譲渡所得がマイナスの場合は不要

所有期間5年以上の場合15%
所有期間5年以内の場合30%
住民税

※譲渡所得がマイナスの場合は不要

所有期間5年以上の場合5%
所有期間5年以上の場合9%

通常、ご本人の居住用物件(マイホーム)を売却する場合には、税制についていくつかの優遇を受けられる特例があります。しかしご相談者様の場合、所有されていたマンションを一旦賃貸用として貸し出していました。その為、マイホームの売却なら受けることができた特例の対象とならないことは覚えておきましょう。

例えば、マイホームを売却したときに出た譲渡所得(※2)については、3,000万円の控除が受けられ、所得税額を圧縮することが可能です。しかし賃貸用物件には適用されません。また、譲渡損が出た場合に損益通算(※3)を行ってもカバーできないとき、損益通算後3年間にわたって繰越控除できる特例も、同様に利用できないのです。

※2譲渡所得
物件を売却価格の総額(譲渡収入)から、物件の購入代金(減価償却費を差し引いたもの=取得費)と売却にかかる諸費用を差し引いた金額。
※3損益通算
損失が出た際に、その年の利益と相殺できる制度。

その他、ご相談者様がマンションを売却したときに負担する税金について挙げておきます。前述で少し触れたように譲渡所得が発生した場合、その金額は課税対象です。そして、金額から算出された所得税および住民税の納付が課せられます。

不動産の譲渡所得にかかる所得税・住民税に関しては、ご相談者様の給与所得と合算することはできません。この場合、譲渡所得の金額のみで計算されます(分離課税)。それぞれの税率については所有期間によって異なる数値が設定されていますが、ご相談者様の場合、少なくともマンションを賃貸に出されてから10年間は所有なさっていたとのこと。その為、譲渡所得が出た場合は長期譲渡所得に分類され、所得税の税率は15.315%、住民税は5%になります。

また、売買契約書に収入印紙を貼付することで納める印紙税が必要です。印紙税の金額は、売買契約書に記載された売却価格によって異なり、例えば2,000万円で売却する場合には2万円の印紙税がかかります。ただし平成32年3月31日までは印紙税の軽減措置がとられ、その場合の税額は1万円です。

そのほか、抵当権抹消登記手続きを行う場合に登録免許税がかかり、不動産1件につき1,000円となっています。ちなみに不動産売買においては所有権移転登記を行いますが、このときにかかる登録免許税は買主の責任による負担となるため、ご相談者様が支払う必要はありません。

賃借人と協議のうえ納得のいく売却を行いましょう。

ご相談者様は賃借人と長くお付き合いしてきたはずですから、マンションを売却するにあたっても安心でしょう。また、信頼関係もあることを考えると、不動産取引を気持ちよく終わらせたいものです。その為、売却価格の設定をはじめとして、遠方にいながらにしての取引はできるだけ迅速に、誠意を込めて双方が納得のいく対応を目指してみてください。