不動産売却の活動にかかる広告代や実費をはじめ、売却完了後の税金の発生タイミングと支払時期についても教えてください。
ご相談者様は、親御様がお住まいの戸建てからマンションへの住み替えをお考えです。戸建ての売却にかかる費用について、親御様に説明なさりたいとのこと。確かに、不動産売却においては売却前から売却後までいろいろな諸費用がかかり、その諸費用の負担についてはいくつかのルールがあります。こちらでは、不動産会社と媒介契約を結んだ前提で順を追ってご説明致します。
まず媒介契約を結んだ後、すぐに必要になるのは不動産売却のための広告費です。不動産売却においては、幅広く広告を打って売りに出していることを、ほかの不動産会社や買主候補に周知させる必要があります。
このとき用いられる広告の方法は、レインズ(※1)や不動産ポータルサイトへの登録、不動産会社の店舗での掲示や折り込み広告が主なものです。こうした広告を出すことから、不動産売却活動が始まります。
そして、これらの広告を出すために発生する費用が広告費です。基本的に広告費は不動産会社の負担であり、あらかじめ不動産会社に支払う仲介手数料に含まれています。そのため、仲介手数料とは別に広告費などを上乗せして請求されることはありませんし、もし請求されたとすれば宅建業法違反です。
ただし、売主から特別に依頼した広告に関する費用については別で、この場合は売主の負担になります。また媒介契約期間中(3ヶ月)に契約解除したときにも、規約違反として広告費が売主に請求されるケースもあるため注意してください。念のため広告費について不動産会社が負担する範囲や、ご相談者様の親御様が特別な広告を依頼するとき、また契約解除時の費用負担について書面を交わしておきましょう。
・媒介契約期間中(3ヶ月)に契約解除したときは売主の負担
そして無事に買主が見つかり売買契約が成立したタイミングで、ご相談者様の親御様は不動産会社に仲介手数料を支払います。仲介手数料は基本的に不動産会社が自由に設定可能です。ただし宅建業法では仲介手数料の上限が設けられており、その計算方法は以下のようになっています。
依頼者の一方から受け取れる報酬額 | |
取引額 | 報酬額(税抜) |
~200万円 | 取引額の5%以内 |
200万~400万円 | 取引額の4%以内 |
400万円~ | 取引額の3%以内 |
難しそうに見えますが、ご相談者様でも簡単に仲介手数料の上限を計算できる方法があります。売却予定の一戸建ての「売買価格×3%+6万円」という速算式を使えば、税抜の仲介手数料上限を求めることができるのです。
では、なぜ6万円という金額が用いられるのか見てみましょう。たとえば3,000万円の家を売却するとして、上記の表に準じて仲介手数料を計算します。
通常の計算 | 速算式 |
200万円×5%=10万円 200万円4%=8万円 残りの2,600万円×3%=78万円仲介手数料の上限: 10万円+8万円+78万円=96万円 |
手数料を一律3%と仮定 3,000万円×3%=90万円仲介手数料の上限: 90万円+6万円=96万円 |
このように3つの料率ごとに計算したときと、一律3%で計算したときで比較すると、必ず「差額の6万円」が発生します。そのため前述した速算式を用いれば、正しい金額が簡単に求められるのです。
また、売買契約とあわせて不動産の抵当権抹消登記を行う際にも、諸費用が発生します。抵当権は、ご相談者様の親御様が現在お住まいの戸建てを購入されたときに組んだ住宅ローンについて、万が一返済が滞ったときに金融機関が不動産を差し押さえできる権利です。
司法書士手数料
不動産売却時にあわせてこの手続きを行わないと、買主にそのまま抵当権が移動してしまいます。抵当権抹消登記には、登録免許税(不動産1件につき1,000円)・登記手続きを司法書士に依頼する場合には報酬(数千円~2万円前後)がかかり、それぞれご相談者様の負担です。
これらの支払い時期に関しては、登録免許税単独なら登記手続き時、司法書士に依頼する場合には、手続き前に登録免許税と報酬をあわせて支払うのが一般的とされています。ちなみにご相談者様が次にマンションを購入する際には、抵当権設定登記に加えて所有権移転登記に費用が発生するため、頭の隅に置いておいてください。
司法書士手数料
不動産売買の諸経費のなかには各種税金も含まれており、ご相談者様のご負担になります。
経費 | 支払時期 |
仲介手数料 | 売買契約締結時・決済時 |
抵当権抹消登記 | 登記手続き時・決済時 |
印紙税 | 売買契約締結時 |
譲渡所得税 | 譲渡した日が属する年の翌年2月16日~3月15日まで |
住民税 | 譲渡した日が属する年の翌年2月16日~3月15日までに確定申告し、6月頃に納付 |
売買契約が成立して契約書を作成するときには、印紙税が必要です。印紙税は収入印紙の額面であり、5万円を超える領収書や契約書などの課税文書に収入印紙を貼付し、消印を押す形で税額を納めます。この印紙税についても、ご相談者様のご負担です。
不動産会社に支払うタイミングとしては、売買契約書作成前か、もしくは売買契約書作成時に一時的に不動産会社に建て替えてもらい、あとで支払います。ちなみに税額については、売買契約書に記載された売却価格によって異なり、たとえば3,000万円の場合は1万円(不動産売買契約書の印紙税の軽減措置適用後)です。
もう1つ、不動産売却において売主が支払う税金に譲渡所得税・住民税があげられます。所得税の納付は毎年3月15日頃まで、住民税は年4期に分けて納付しなければなりません。譲渡所得は、いくつか種類がある所得の一種です。ご相談者様のケースでは、戸建ての売却価格から、戸建ての購入価格(減価償却費を差し引いたもの)・購入時および売却時の諸経費を差し引いた金額になります。
住民税
つまり、戸建ての売却価格が戸建ての購入価格・諸経費の合計額よりも多く、利益(譲渡益)が出た場合にその部分が課税対象になるということ。ここでポイントになるのが、譲渡益にはいくつかの特例が適用される点です。
まず居住用不動産を売却するとき、設定された条件を満たせば最大3,000万円の特別控除が受けられます。その条件とは「売主が居住していること」「譲渡する買主が親族などでないこと」「売却前2年以内にこの特別控除および買い替え・譲渡損失における特例を受けていないこと」などです。
つまり、仮に3,000万円の不動産を売って譲渡所得があったとしても、条件を満たせば特別控除により課税対象の金額は発生しないことになります。ご相談者様の場合、親御様が長く戸建てに居住されていることから、親族に売却するのでなければほぼ条件を満たしているでしょう。
また、ご相談者様は戸建てからマンションへの買い替えをご検討されているとのことで、特定居住用財産の買い替え特例が適用される可能性があります。この特例の条件は以下のとおりです。
・売却価格が1億円以下
・買い替えする不動産は築25年以内・床面積50平方m以上
・売却する不動産・買い替える不動産ともに日本国内にあり、売却する不動産に関しては収用等の場合の特別控除などほかの特例の適用を受けない
・売却の前年から翌年までの3年間にマイホームを買い替えること など
設定された条件を満たすことで、譲渡益が出た場合でも買い替えした不動産を売却するときまで税金の支払いが繰り延べられます。加えて、10年を超えて所有している不動産には、軽減税率の特例が適用可能です。こちらは3,000万円の特別控除と併用ができます。
これらの特例をどのように利用すればより税額を圧縮できるかについては、売却価格も含めケースバイケースです。詳しくは、媒介契約を行う不動産会社に相談してみるとよいでしょう。
ちなみに、売却物件にかかる固定資産税については、売却した年の1月1日まで売主が所有している場合、その年の分は売主の負担です。ただし買主に引き渡して以降の日割りを計算し、買主との相談のうえでその金額を不動産売却価格で調整もできます。
そのほか、ご相談者様が負担する細かな費用についてご説明します。
ご相談者様の親御様が今お住いの戸建てと土地を一緒に売却するとして、測量図と実際の土地面積・形状などに明らかな相違が見られる場合、境界を明確にする目的で確定測量が行われることがあります。確定測量を行う際は、その費用を負担するのもご相談者様の親御様であり、測量依頼を行った際に支払わなければなりません。
確定測量の費用は土地面積などの条件によって異なりますが、100坪の土地で50万円前後が相場です。確定測量に国や自治体が立ち会う場合には、さらに30万円ほど上乗せされます。
また、売買契約時や登記手続きの際には実印を使った押印が一般的です。これには、契約を行うのが所有者ご本人であることを証明するため、また法務局での登記情報の照合を容易にするためなどの理由があります。特に法務局への登記手続きの際には、実印の押印および印鑑登録証明書の提出が必要です。印鑑登録証明書は、自治体によりますが1通につき300円ほどの費用がかかります。
そのほかご相談者様のケースでは、戸建てからマンションに引越しする際の引越し費用も必要でしょう。移動距離や荷物の多さなどでかなり金額は異なります。もし不動産売却してから新居購入までに間が空く場合には、仮住まいとして賃貸住宅などに住むことになるかもしれません。すると引越し費用が2回分かかるほか、仮住まいの賃料もかかってきます。
新居の購入費用といった資金繰りのためにも、売却金額が手元に来るタイミングを覚えておきましょう。
不動産売却を行った場合、売却金額は2回に分けて売主の手元に来ることになります。1回目は手付金として、2回目は売却価格の総額から手付金を差し引いた残りの金額です。手付金は売買契約の際に買主が支払うものであるため、契約を結んだ時点でご相談者様の親御様に渡るでしょう。目安の額としては、売却価格の1割~2割程度が相場とされています。
その残りの金額については、売却物件を買主に引き渡す際に受け取ります。ただし売買契約成立から引き渡しまでの間は、買主が住宅ローンの審査を受けている、売主たるご相談者様の親御様が引き渡しの準備を行うなどの理由でタイムラグが発生しがちです。
そのため手付金を受け取ってから残りの金額が手元に来るまで、1ヶ月~2ヶ月程度かかると考えておくとよいでしょう。ご相談者様の親御様が、戸建てを売却した金額で諸費用をやりくりしようとお考えであれば、売却金額が手元に来るタイミングとその額を把握したうえで計画を立てる必要があります。
では、ご相談者様のケースではどのように現金をやりくりするのがよいかシミュレーションしてみましょう。親御様がご高齢とのことで、おそらく現在お住まいの戸建ての住宅ローンは完済されているものと思われます。戸建ての売却金額を住宅ローンの返済に充てる必要がないため、多少資金に余裕があるのではないでしょうか。
また、戸建ての住宅ローンを完済した場合、先にマンションを購入してもローンのダブル返済は考えずともよくなります。さらに、住み替えるマンションは親御様お2人でお住まいになることから、多少コンパクトな間取りでも事足るのであれば、マンション購入金額を抑えられるでしょう。
そのほか、先に住み替え先を購入しておくと仮住まいを挟む必要がありません。ご高齢の親御様にもご負担が少なくなります。これらを考えると、先にマンション購入手続きを進め、あとで戸建て売却を行ってもよいと考えられます。
もし、マンションの購入手続きの前に戸建ての売却が成立すれば、戸建ての買主からの手付金を、マンションの売主に支払う手付金や頭金に充てることも可能です。とはいえ購入と売却のタイミングを合わせて、うまく同時進行させるのは難しい部分があります。そこで、マンションの購入手続きが済み新たに住宅ローンを組んだあとで、戸建ての売却が成立するタイミングを想定しましょう。
この場合、マンションの手付金や購入にかかる諸費用は、親御様の資金から捻出することになります。そのため初期費用の負担がデメリットではありますが、のちに手元に来る戸建ての売却金額で、マンションの住宅ローンを繰り上げ返済できるのです。
このとき注意したいのは、売却金額のすべてをマンションの住宅ローン返済に充ててしまうと、老後の生活資金が立ち行かなくなる可能性があるということ。繰り上げ返済を行うときには、手元に残しておく金額とローン期間などをよく考慮し、資金計画を立ててみてください。
住み替えにかかる諸費用をよく理解して資金繰りを考えましょう。
これまでご説明したように、不動産売却にかかる諸費用は広告費のみ不動産会社の負担で、そのほかご相談者様の親御様が負担するのは仲介手数料や登記費用、税金などです。なかでも売却時にすぐ必要になる費用で大きなものに、不動産会社へ支払う仲介手数料があります。
資金繰りを行うにあたっては、この仲介手数料をきちんと把握しておくことが重要です。諸費用や新居のマンションの購入時期・費用を含めて、資金計画はしっかりと立てましょう。