父から相続した借地権が設定されている底地を売りたい。

現在、土地に建物を建てて住んでいる借主に、土地をそのまま売りたいと考えています。提案するためには金額をいくらに設定すればよいのでしょうか?また、その金額の根拠はどのように説明すべきかという点も迷っています。

50代男性です。生前父が底地を持っており、毎月支払われる地代が大した金額ではないので買い取って欲しいと考えています。

ご相談者様は底地権(※1)をお持ちで、お父様が所有しておられた土地を借主、つまり借地権者(※2)に貸していらっしゃいます。その借地権者から得られる地代が安いことから、借地権者に土地を売ることを検討されているとのことでした。

※1底地権
借地権(※3)がついて借地権者に貸している土地の所有権。
※2借地権者
借地権を所有する権利者。
※3借地権
第三者の土地を借りて自分が所有する建物を建てられる権利。土地を借りられる賃借権と土地を使用できる地上権を合わせたもの。

実際に、借地権を設定している土地を売る場合、借地権者に底地権を売却するという形になります。これにより借地権者は、土地の所有権を得ることが可能です。つまり土地の所有権とは、底地権と借地権の両方を合わせて成立するものということです。

仮に、底地権を借地権者ではない第三者に売却する場合、多くは更地価格のわずか10%程度にしかなりません。その点を考慮すると、土地を手放すときに借地権者に底地権を売却するのは一番良い方法と言えるでしょう。

なぜなら、底地権を購入することで最もメリットを得られるのは借地権者であるためです。借地権者が底地権と借地権を合わせた所有権を得ることで、家の建て替えなどの際にご相談者様の了解を得るなどの手間がなくなり、自由に土地を使えるようになります。

このように借地権者にとって底地権を得ることはメリットが多いことから、第三者に底地権を売るよりも高額で売れる可能性が高いです。また土地を手放して利益を得たいご相談者様と、土地の所有権を得られる借地権者との間はwin-winの関係とも言えるでしょう。

ちなみに借地権には2種類あり、ほぼ永久的に契約更新され続ける普通借地権と、契約期間が定められている定期借地権に分けられます。ご相談者様の土地に定期借地権が設定されている場合、契約満了時には土地を売ることなくご相談者様のもとに土地の所有権が戻ってくるルールです。そうすれば、さまざまな土地活用によって収益を得ることもできます。

しかし、普通借地権の場合は契約が自動的に更新され、また底地権者による更新の拒否や更地での返還などを借地権者に請求することはできません。そのためご相談者様は土地を自由に活用することができず、ずっと安価な地代しか得られないことになります。

それならば、借地権者に底地権を売ってしまったほうがまとまった収益を得られ、ご相談者様にとっても有利でしょう。前述のようにご相談者様と借地権者双方にメリットがある方法であるため、スムーズに事が運ぶ可能性も高まります。

借地権者に土地を売る際、価格の提案は借地権割合を基準にすると簡単です

前述のように、土地の所有権は底地権と借地権によって成立するものです。そのため底地の価格は、土地の所有権価格(更地価格)から借地権割合によって算出した借地権評価額を差し引いて導きます。借地権者に底地の金額を提案するには、まず更地価格と借地権割合を調べることから始めましょう。

借地権割合は土地によって異なり、更地価格(土地の評価額)が高ければその分借地権割合も高くなる傾向にあります。ご相談者様の地域における土地の評価額および借地権割合を知るには、国税庁のホームページもしくは税務署で閲覧できる「財産評価基準」から相続税路線価(※4)図を見ると簡単です。ご相談者様は亡くなられたお父様から土地を譲り受けているため、目にしたこともあるのではないでしょうか。

※4相続税路線価
土地の相続や贈与にかかる相続税・贈与税を計算する際に使用する基準。この基準は、税額計算のみならずさまざまな不動産価値の評価に用いられる。

相続税路線価による土地の評価額は、その土地に走っている道路ごとに設定された価格から算出可能です。相続税路線価は1平方メートルあたりの単価であり、千円単位で表記されています。つまり、「300」と表記されていれば相続税路線価は30万円です。借地権割合は7段階で設定され、相続税路線価図を閲覧する際にアルファベットで併記されています。

記号 A B C D E F G
借地権割合 90% 80% 70% 60% 50% 40% 30%

たとえば、ご相談者様の土地における相続税路線価図に「300D」と表記されている場合、Dは借地権割合60%を示すため、1平方メートルあたりの借地権評価額は18万円となります。そして「30万円-18万円=12万円」が底地1平方メートルあたりの価格となるわけです。

この金額にご相談者様の土地の面積をかければ、底地の価格が求められます。ただし相続権路線価と借地権割合から算出される底地の価格は絶対ではなく、目安として参考にすることをおすすめします。なぜなら底地権者から借地権者に土地を売る場合、基本的には双方の話し合いによって価格が決定されるためです。

この場合、ご相談者様は土地を売る希望が叶い、借地権者は建物だけではなく土地も自由にできる所有権を得ることになり、利害が一致します。そのため場合によっては、借地権割合を考慮した底地価格よりも高値で売れるケースもあるでしょう。ただし双方が納得する方法で価格を決定するには、借地権割合を考慮して求めた底地価格を基準にし、その旨を借地権者に説明するのが無難です。

不動産鑑定評価基準を用いる方法もあります。

実際の土地の価格については、土地の形状や周辺環境なども考慮されることがあります。これは、借地権割合から求める底地価格が絶対ではない理由の1つです。このような土地の特徴を考慮し、不動産鑑定士により設定される基準が「不動産鑑定評価基準」です。

不動産鑑定評価基準による底地価格の算出は、まず借地権評価額を算出することにより行います。ご相談者様のケースで、不動産鑑定評価基準により借地権評価額を求める方法には、以下のものが適用されるでしょう。

取引事例比較法
該当の土地に対して過去の借地権売買の事例を参考にし、比準価格を計算する方法です。
借地権割合方式
取引事例比較法などによって求めた借地権割合と更地価格をかけます。
賃料差額還元法
実際の地価と地代を比較し、その差額を考慮して借地権評価額を算出します。

このように、不動産鑑定評価基準を用いて底地価格を算出するには、まず借地権評価額を割り出す必要があります。そして、これらの方法は必ずしも1つだけ適用されるわけではなく、様々に組み合わせて使用されることがほとんどです。

不動産鑑定評価基準の要素や価格の算出方法はとても複雑であり、不動産鑑定士の豊富な知識がなければ正しく行うことができません。つまり相続税路線価と借地権割合から底地価格を求める場合に比べて、素人には難易度が非常に高いということです。

不動産鑑定評価基準によって底地価格を設定する際には、不動産鑑定士が在籍している不動産会社に相談することをおすすめします。ご相談者様が借地権者に価格を説明するときにも、不動産会社に相談した旨を伝えるとよいでしょう。

土地を売るなら、複数の不動産会社に相談しましょう

不動産鑑定評価基準をもとにして底地価格を決定するなら、不動産鑑定士が在籍している不動産会社に相談するのが一番でしょう。ここで注意したいのは、不動産鑑定士が在籍している不動産会社ならどこでもよいというわけではないことです。

上記で示したように、不動産鑑定評価基準は存在していますが、この基準に適用する数値や条件は各社で異なります。その結果、底地価格の算出も不動産会社ごとに違ってくるのです。つまり、会社によって底地を高く評価する会社もあれば低く評価する会社もあり、たまたま選んだ会社が後者であればご相談者様が損をすることになります。

そこで、不動産会社に相談するときは1社で決めるのではなく、複数の不動産会社に底地価格の見積りを依頼するようにしましょう。こうした相見積りをとることは不動産業界では普通のこと。大きな金額が動く取引ですからご相談者様に選択の余地を与えられるのは当然です。

複数社からとった見積りを比較して、そこから最も納得できる価格を提示した会社を選ぶのも1つの手段と言えます。もしその金額で借地権者に説明しづらいなら、複数社から提示された底地価格から平均額を出す方法を採れば、交渉時にも納得してもらいやすくなるでしょう。

もしご相談者様がお忙しくて、何社も不動産会社を回れないときは、不動産一括査定サイトを利用してみてはいかがでしょうか。不動産一括査定サイトは、査定フォームに土地の情報を入力することで、サイトに登録している多数の不動産会社がそれぞれに見積りを出してくれるサービスです。見積りをとる会社は、サイト上で利用者が任意で選ぶことができます。

このサイトを利用すれば、ご相談者様はわざわざ不動産会社に何度も足を運ぶことなく、底地価格の査定を一括で済ませられるのです。さらに、家にいながらにして複数社の見積りを比較でき、借地権者に提示する底地価格を決定するのも楽になります。

ただし、不動産一括査定サイトはあくまで簡易的な査定を行うものです。もっと詳細に底地の価格を知りたいときには、不動産一括査定サイトでとった複数の見積りから1社を選定し、正式に底地価格の鑑定を受けてみてください。

この際には土地の売買契約書や登記簿謄本、固定資産税や都市計画税の金額がわかる書類などを用意しましょう。こうした正式な鑑定を受ける際には、不動産会社への報酬が発生します。しかし、不動産評価書を発行してもらうことにより、借地権者への価格の説明に説得力が増してトラブルを回避できるというメリットが考えられます。

土地を売る際には、抵当権の設定に注意しましょう

最後に、ご相談者様が借地権者に土地を売る際に注意したいことを挙げておきます。それが「抵当権」に関するポイントです。抵当権は、土地をローンで購入した際などに土地を担保とし、ローンの支払いが滞ったときに債権者が不動産を差し押さえできる権利のこと。また土地を相続した際に発生する相続税の支払いで、金融機関から融資を受けた場合、金融機関が土地に抵当権を設定するケースもあります。

ご相談者様はお父様から土地を相続されていることから、次のケースがないか確認をしてください。それは、お父様が土地を購入した際の抵当権が設定されたままになっているケースと、相続税支払いのために金融機関から融資を受け、抵当権を設定されたケースです。相続税を延納した場合には、国税局から抵当権の設定を受けることもあります。

ご相談者様のケースでは、土地を相続されていることからローン完済と考えられますし、相続税の支払い自体は終了しているでしょう。また、相続税支払いの際に融資を受けていたとしても、借地権者からの地代で返済が終了していると仮定します。

そうすると、もし抵当権が設定されていた場合でも、現状で抵当権が行使されることはなかろうと、権利は残り続けているかもしれません。抵当権抹消手続きがされていないことがわかった時は、底地権の売却=所有権の移転が行われる時に万が一抵当権が行使されることのないよう、売却時に抵当権抹消登記の手続きを行うのが一般的です。

抵当権抹消登記は、ご相談者様の地域を管轄する法務局で行います。法務局から抵当権抹消登記申請書を受け取り、必要事項を記載しましょう。このとき抵当権を設定した金融機関から発行される弁済証書・抵当権設定時の登記済証・登記事項証明書・抵当権抹消の手続きを金融機関が委任することを示す委任状が必要です。

これらの手続きはとても煩雑で、ミスをすると手続きが滞ってしまいます。そのため不動産登記のプロである司法書士に手続きを依頼するのもよいでしょう。司法書士は、不動産会社が紹介してくれることもあるので、底地価格の鑑定を不動産会社に依頼する際に合わせて相談してみてはいかがでしょうか。

なお自分で抵当権抹消登記手続きを行う際にかかる費用は、登記事項証明書の費用と登録免許税などを合わせて、高くても4,000円前後です。ただし司法書士に依頼する場合には、これに加えて司法書士への報酬など諸費用がかかり、合計で1万円~1万5,000円前後かかる可能性があるため注意してください。

そもそも、これらの手続きは抵当権抹消手続きがすでに行われていれば改めて行う必要はありません。しかし借地権者に底地権を売る前に、念のために登記上、抵当権が設定されていないかは調べておくべきでしょう。不動産の登記簿謄本に記載されているため、取り寄せればすぐに確認できます。

路線価や不動産会社からの鑑定をもとにして、借地権者と納得のいく交渉をしましょう

ご相談者様から借地権者に底地権を売却するとき、底地価格の設定は重要なポイントです。借地権者との売買交渉においては、路線価と借地権割合から算出した価格、もしくは不動産会社からの鑑定価格を基準にすればスムーズに進むでしょう。もし不動産会社を利用するときには、不動産一括査定サイトを賢く活用するなど工夫してみてください。