突然、調整区域の土地を売ってくれという申し出があった。

グループホームを建設したいという方から、使い道のない市街化調整区域を「売ってくれ」と打診されました。たしか市街化調整区域は建物が建てられないはずなので詐欺話でしょうか?本当の話の場合も、自分で交渉すべきかわかりません。それとも不動産会社に仲介してもらったほうがよいでしょうか?

埼玉県でひとり暮らしの65歳女性です。旦那から相続した市街化調整区域の更地は活用方法がなくそのままにしています。

ご相談者様は、亡くなったご主人様から相続した市街化調整区域の土地を売ることを前提にご質問されているとお見受けしました。そのため、土地を売るためのご説明をさせていただきます。まず、市街化調整区域にグループホームを建てるのは可能であるかという疑問点についてお答えすると、建築許可が下りれば可能です。この問題を解消するために、市街化調整区域とはどのようなものかを詳しくご説明します。

都市計画区域においては、市街化計画を円滑に進めるために、都道府県によって2種類の区域区分を設けることが都市計画法で認められています。この2種類の区分区域が市街化区域と市街化調整区域です。市街化区域は積極的に市街化を進めることを前提とした区域であり、住宅や商業施設の建設を進めて市街化することが可能です。

一方の市街化調整区域は、その逆の意味合いを持ちます。こちらは無限に市街化が広がっていくのをセーブする目的で設定された区分であり、原則として開発を行いません。そのため、住宅や商業施設などを自由に建設することができないのです。

この点から、ご相談者様は市街化調整区域に建物を建てたいという要望を疑問視されたとお察しいたします。長期にわたって土地活用を行わずにそのままにされていたのもこのためでしょう。しかし実際には、区域区分を定めた都道府県に建築許可を申請し、認められれば建物を建てることはできます。

ただし、その建物の用途は都市計画法によって14種類に分けられており、これに該当しないものはやはり建設はできません。市街化調整区域において建築・開発が認められる用途の基準は、以下の表のとおりです。

第1号 開発区域に居住する人の生活に必要な施設 店舗・医療施設・美容院・学校など
第2号 鉱山資源・観光資源などの施設、第1種特定工作物に関係する施設 遊園地・ホテル・ゴルフコースなど
第3号 特別な自然的条件を必要とした施設
第4号 農林水産物の処理・貯蔵・加工などに使われる施設
第5号 特定農山村地域における農林業等活性化施設
第6号 中小企業の共同化、集団化の事業に使用する施設
第7号 現在ある工場の事業効率化を目的とした施設 原則として既存工場に隣接する土地でなければならない
第8号 危険物(火薬類)の貯蔵または処理に必要な施設
第9号 道路の円滑な交通を確保するために必要な施設 ドライブイン・コンビニ・ガソリンスタンドなど
第10号 地区計画あるいは集落地区計画の区域内における開発
第11号 市街化区域に隣接・近接し一体的な日常生活圏を構成していると認められる地域で、環境保全に支障がないもの 住宅など(約40~50棟以上の住宅が一定間隔で集まっていることや、上下水道の整備、道路隣接などの一定条件が必要)
第12号 条例で区域・目的または予定建築物などの用途を限られたもの 住宅の増築・改築など
第13号 もともと居住用や業務用を目的としていた土地であり、一定期間内に建築が完了できるもの 自己用の住宅など
第14号 市街化区域では困難、または著しく不適当と認められるもので、開発審査会で許可を得た施設 農家などの親族の自己用住宅(農家分家住宅など)・寺・納骨堂・老人ホームなど

ご相談者様の土地を打診をされているのは老人のためのグループホームです。グループホームとは、高齢者向け施設のなかでも収容人数が10人以下と小規模で、主に自分の身の回りのことがこなせる認知症の方を対象にした施設です。

グループホームは基本的に在宅介護施設であり、利用者は自宅から施設に通うことになるため、地域密着施設に分類されています。これを都市計画法34条に照らし合わせると、周辺地域の住民が必要とする社会福祉施設に数えられ、第1号として建築が認められています。

また市街化区域では、土地開発にあたって商業系・工業系・住居系など用途地域が定められていますが、市街化調整区域では原則的にこの定めがありません。そのため上記の表に掲げた条件を満たし、都道府県との協議によって建築が許可されれば、用途にかかわらず建築ができます。グループホームのように小規模な施設から、比較的規模の大きな施設を建築することも場合によっては可能です。

このように、市街化調整区域では許可が下りれば用途はある程度の幅が認められています。そのためご相談者様が心配なさっている「詐欺ではないか」という点に関しても、おそらく問題はないはずです。開発事業者が正当に許可をとり、建築確認を受けたうえで進めている本当の話と考えるのが妥当でしょう。

グループホームを市街化調整区域に建てることには、メリットがあります

では、なぜ市街化調整区域をわざわざ選んでグループホームを建築するのかという点について、ご説明したいと思います。その理由はやはりメリットが多いためで、まず市街化調整区域は開発を制限されていることから、周辺に住宅が少ないのが特徴です。認知症の方をお世話するグループホームでは、外出などの機会に近隣とのトラブルが起きる可能性があります。周辺に住んでいる方が少なければ、トラブルを回避しやすいのです。

また、市街化調整区域は土地活用に制限があり、都道府県の許可が下りなければ施設の建築が不可かつインフラ整備があまり進んでいないことなどから、土地の価格は比較的安めに設定されています。市街化調整区域の市場価格相場は、市街化区域に比べて半分以下であるケースがほとんどです。つまり開発事業者は土地購入のコストを抑えて施設を作ることが可能になり、経営を圧迫するリスクも抑えられます。

さらに市街化調整区域は地域住民のつながりが強く、地域のイベントなどが盛んに行われるなど人々の交流が活発です。グループホームの目的は地域に密着し、その地でいきいきと生活すること。地域の人々と交流する機会が多いのは大きなメリットと言えるでしょう。

そのため、ご相談者様がグループホームの開発事業者に土地を売ることで、地域の社会福祉に貢献できるという見方もできます。土地活用の方法を見いだせず漫然と所有し続けるよりは、思い切って売ることも検討してみてはいかがでしょうか?多くの人が幸せになるだけではなく、ご相談者様にもまとまった金額が入ってくることになり、双方にとって良い結果になるはずです。

土地を売るとき、自分で売る方法と不動産会社に仲介してもらう方法それぞれにメリット・デメリットがあります

ご相談者様は、土地を売る際にご自分で交渉するか、不動産会社に仲介を依頼するか迷っているとのこと。これらの方法にはそれぞれメリットとデメリットあります。まずは、ご自分でグループホーム開発事業者と交渉する場合について見ていきましょう。

この場合、大きなメリットは不動産会社に仲介手数料を支払う必要がないということです。つまり、土地の売却額はそのままご相談者様の手元に渡ります。また、ご相談者様のケースではすでに売却先が決まっているため、自分で買主を探す必要もないでしょう。あとは、開発事業者との交渉がうまく運べば問題はありません。

逆に言えば、個人で取引を行う場合には買主とのトラブルが起きやすいとも言えます。特に価格の交渉については、開発事業者からかなり安い金額を提示されるかもしれません。市街化調整区域は市場相場から見ても価格が安めに設定されていることから、開発事業者が安価な金額を提示してきたとき、ご相談者様の反論する余地がなくなり追い詰められるケースもありえます。

さらにご相談者様も開発事業者も、該当する土地の建物の規制や地目の設定、インフラ整備などにあまり明るくない場合、そこからトラブルに発展するケースも少なくありません。特に不動産売買では、売主に瑕疵担保責任(※1)が課せられます。

※1瑕疵担保責任
売却する不動産に、発見しづらい何らかの欠陥があった場合、売主は補修や賠償などの責任を負うべきとされている。

また、土地に不要なコンクリートや配管などが埋まっている場合、ご相談者様が費用を負担して撤去しなければなりません。瑕疵担保責任による賠償・補修などを行った際には、費用負担が売却額を大きく圧迫する可能性もあり注意が必要です。

そのうえ土地の所有権移転登記や、抵当権が設定されている場合には抵当権抹消登記など、売買にかかる煩雑な諸手続きを自分で行う必要があります。これらの手続きは細かな書式と必要書類を用意しなければならず、不備があるともちろん受理されません。

一方の不動産会社に仲介を依頼する方法では、上記に記載したようなトラブルをほぼ回避できることが大きなメリットです。不動産会社は市街化調整区域に関する法的な規制や、インフラなどの環境について熟知しています。そのため、ご相談者様と開発事業者双方に十分な説明を行い、お互いに納得した状態で売買を進められるはずです。

所有権移転登記や抵当権抹消登記など、個人で行うには難しい手続きも不動産会社が司法書士を紹介してくれることがあるため、安心して任せられます。重要な価格についても、不動産会社ならその地域における市街化調整区域の市場相場を把握していて当然です。そのため適正価格を開発事業者に提示できて、ご相談者様が不利になる条件を避けられるでしょう。

また、市街化調整区域は法規制などが特殊であるため、より専門的な知識を持っている不動産会社なら仲介を依頼するのも一案です。不動産会社のなかには、市街化調整区域を専門に取り扱う会社もあるため、調べてみてはいかがでしょうか?

そして、不動産会社に仲介してもらうときのデメリットと言えば、やはり仲介手数料が必要になることです。不動産会社に支払う仲介手数料は、以下のような上限が設定されています。

依頼者の一方から受領できる報酬額
取引額 報酬額(税抜)
取引額200万円以下の金額 取引額の5%以内
取引額200万円を超え400万円以下の金額 取引額の4%以内
取引額400万円を超える金額 取引額の3%以内

この仲介手数料には、買主を探すための広告費なども含まれています。ただし、ご相談者様のケースではすでに買主が決定していることから、不動産会社によっては仲介手数料を割引してくれるかもしれません。仲介手数料に関して買主がいることを説明したうえで相談してみることをおすすめします。

そのほか、稀に市街化調整区域の売買について取り扱いを渋る不動産会社も存在します。しかし、これは主に買主が見つかっていない場合に、市街化調整区域を購入する買主を見つけるのが困難でリスクが高いことが主な理由です。そのため買主がいる状態であれば、後は手続きだけなので楽です。

ご相談者様の土地を売るには、やはり不動産会社に仲介を依頼するのが賢明です

このように、個人で売買を進める場合と不動産会社に仲介を依頼する場合では、それぞれに利点と欠点があります。総合的に判断すれば、ご相談者様の負担を減らせるように不動産会社に依頼するのがおすすめです。そして、よりよい条件で土地を売るためには、複数の不動産会社に査定見積りを依頼して比較するのがベターでしょう。

1社だけではなくいくつかの会社の見積りを比較すれば、より仲介手数料の少ない不動産会社を選べるうえに、市街化調整区域の市場相場を知ることもできます。ただでさえ市街化調整区域の市場価格は安めであり、なかでもより条件のよい不動産会社へ仲介を依頼するのが得策です。

複数の不動産会社から査定見積りをとるには、不動産一括査定サイトを利用すると便利でしょう。不動産一括査定サイトでは、査定フォームに必要な情報を一度入力するだけで、任意で選んだ会社から見積りをとることが可能です。

最も納得できる仲介手数料を提示した会社に正式に取引の仲介をしてもらうことで、グループホームの開発事業者も納得しやすく、何よりご相談者様に有利になります。不動産一括査定サイトを上手に使って、市街化調整区域の土地を賢く売る方法を採ってみてください。

市街化調整区域の土地を売る前に、注意したいポイントをお教えします

最後に、市街化調整区域の土地を売るにあたっての注意点をご紹介します。まず「地目」がどうなっているかをよく確認しましょう。前述のように地目が農地になっている場合、グループホームを建てるには地目を宅地に変更するため、農地転用の手続きが必要です。

また、市街化調整区域の規制やその土地独自の条件をよく確認することも大切になります。これに関しては、不動産会社に相談して調査や説明を受けるといいでしょう。

市街化調整区域には細かな規制が多く、売却するにあたって確認すべき事項もたくさんあります。買主がすでに決まっているとはいえ、この土地を個人で取引するのは危険でしょう。トラブルを回避する意味でも、手続きや取引は第三者の不動産会社へ依頼するのが得策です。不動産一括査定サイトなどを賢く利用し、トラブルなく納得できる取引を目指しましょう。