実家の両親が趣味で農作物を育てている畑の土地を、売って欲しいと申し出があったようです。なんでも建売を建てたいらしく、実家の両親はどうしたものかと私に相談をしてきました。買取金額が高ければ売ってもよいと考えているみたいですが、相場がまったくわかりません。どうすればよいでしょうか?
ご相談者様のご実家の畑について、売却額が高ければ売ることを検討されているとのことですね。土地においては、現況どのような目的で利用されているかで扱いや手続きが異なってきます。特に農地は、農地法(※1)により規制が設けられており、土地を売るにはさまざまな条件をクリアする必要があるのです。
そして農地法は地目(※2)にかかわらず、あくまで耕作を目的とした土地にのみ適用されます。農地法は現況主義で適用されることから、地目が農地でも現況がそれ以外の用途で使用されていれば、農地法の適用は受けません。
ご相談者様のご両親のように、趣味で農作物を育てている場合は家庭菜園のレベルとみなされるため、現況は農地に当たらないでしょう。また、農地法上での農地は農家でないと購入できないため、ご相談者様のご実家が農家でなければ、その土地は農地ではないと考えられます。
ご相談者様のご実家の畑が農地法上の農地であるか否かは、土地を売る際の売却額に大きく影響を与えます。なぜなら農地の売却額は、宅地や雑種地などと比べて非常に安い傾向にあるためです。これは農業の推進や食料確保を図る目的で、農地における固定資産税などの税金が優遇されていること、また宅地と比べて農地は収益性が低いとみなされることが理由にあります。
しかし今回のご相談者様のケースでは、畑は農地法における農地には当らず、その地域に開発計画があって建売住宅を建築する予定というお話です。この場合、開発地域であることから更なる売却額の上乗せを期待できるでしょう。
更にご相談者様のご実家付近が市街化区域に指定されているとき、市街化促進のために、周辺地域は住宅の建築に加えて生活の利便性を図る開発も行われます。その結果、商業施設や学校などの教育施設の設置も進んでいるはずです。
この為、土地への需要が高く、高い買取額を提示している可能性が考えられます。その他、農地転用(※3)の必要もないとことから、煩雑な手続きもせずに済むでしょう。
建売業者が良い条件を提示しているかもしれません
建売用地として利用する土地は、その需要から比較的高値をつけてもらえるかもしれません。通常、不動産会社に買い取ってもらう場合の売却価格は、通常の実勢価格より7割前後の売却額となることが多いです。
理由は、不動産会社が土地を買い取ってから買主に再販するための費用、また整地や造成(※4)といった整備を請け負うことによる手間を考慮しているためです。
ただし、今回のケースのように建売業者に買い取ってもらう場合、通常の不動産会社の買取と多少事情が異なります。不動産会社は、売れるか保証のない土地を所有して転売活動を行うために売却額を低く見積る傾向がありますが、建売業者は既に土地の利用目的を決めており、需要がその時点で固まっているわけです。
そのため、建売業者が買い取る形で土地を売却するなら、不動産会社が買い取るケースよりも高値になる確率が高いはずです。場合によっては、仲介で売買する実勢価格と同等程度になることも考えられます。更に、ご相談者様のご実家が開発計画が進んでいる、もしくは畑の周辺の土地が既にに建売用地として売却されているといった状況なら、買取額を上乗せしてくれる可能性が高いのではないでしょうか?市街地として開発されるのであれば住宅の需要は高まりますし、周辺の土地と一緒に建売住宅を販売できれば、建売業者としても大きな利益が得られるためです。
このような事情について、ご相談者様は建売業者からよく話を聞いておくことをおすすめします。ご相談者様のご実家の土地にどれくらいの需要があるか、建売業者がその土地をどれくらい欲しがっているによって見合った買取額を提示してくれるはずです。
ここで注意しておきたいのは、土地の本来の実勢価格を把握していないと、建売業者が提示した金額が高値であるか否かが判断できないという点です。また、建売業者が必ずしも実勢価格よりも高値を提示してくれるとは限りません。そこで、ご相談者様が事前に土地の市場価格をある程度把握しておくことをおすすめします。
もし、ご両親に不動産の知識があまりないとわかると、建売目的といえどもかなり安い買取額を提示されるケースも考えられます。また、整地や造成などの費用に関して、ご相談者様のご両親自らが行えば10万円程度の費用で済みます。しかし、建売業者に整地・造成を依頼するとおよそ数十万円が売却額から差し引かれ、手元に残るのは結局実勢価格よりもかなり減額される可能性もあるのです。
このような点から、建売業者が提示した金額をうのみにする前に、ぜひ実勢価格や整地・造成の費用について調べておいてください。
畑の土地の実勢価格を把握する方法があります
ご相談者様のご実家の畑が、実際にどれくらいの価値があるのか実勢価格を調べる方法にはいくつかあります。1つは、不動産会社に査定を依頼することです。ただし、今回のケースでは地元の不動産会社にも建売の情報が入っている可能性があり、快く対応してくれない可能性があります。
そこで便利なのは、「不動産一括査定サイト」の利用です。不動産一括査定サイトなら、建売などの需要を一切考慮しない土地本来の実勢価格を知ることができます。土地の面積や地域情報などを入力すれば、ウェブサイトに登録している複数の不動産会社から一括査定を受けることができます。
なお不動産一括査定サイトでは、土地の状況を直接見ることのない簡易査定・机上査定の形をとりましょう。どのように査定するかというと、過去の同様の物件における取引実績や公示地価、運用した際の収益などを考慮するという手法です。その基準はおおむね共通したものであり、良心的な不動産会社からいくつかの査定見積りをとることで、およそのの実勢価格相場を知ることができます。
こうして実勢価格相場を把握した時点で、ご相談者様のご両親が建売業者に提示された金額と照らし合わせてみてください。建売業者が提示している買取額が土地本来の実勢価格に対してどの程度なのかはっきりすると思います。
更には、建売業者が熱心に買取を勧め、かつ実勢価格よりも提示金額が安い場合は、交渉の余地があります。不動産一括査定サイトで提示された査定額を伏せて、プロの建売業者に対して対等に交渉することもできます。
また、建売業者に直接土地を買い取ってもらう場合、不動産会社が仲介に入るわけではないため、仲介手数料を支払う必要がないことはメリットでしょう。土地売買の仲介手数料は、最大で売却額の3%+6万円となり、売却額から差し引くと痛手です。その負担がない分、建売業者にそのまま売ってしまうのはお得です。
建売業者に土地を売る際のメリットと注意点
もしご相談者様のご両親が、建売業者から提示された買取額で土地を売ることを決めたら、考えられるメリットと注意点を覚えておいてください。建売業者と直接交渉できるということは、仲介に比べてさまざまな手間が減るということです。
まず、前述のとおり、不動産会社に仲介を依頼する場合と比べて仲介手数料がかからないのはメリットでしょう。また、不動産会社に土地を買い取ってもらった場合、その土地がどのような用途で使用されるのか売主に知らされることはありません。しかし建売住宅の場合は目的が初めから決まっていますから、売主も心理的に安心できるという面もあります。
その他、本来不動産の売却において売主が負うべき瑕疵担保責任(※5)を追求されにくいという点もメリットにあげられます。ご相談者様のご実家の畑に、昔住宅だったころの古い水道管や廃材などが埋まっている可能性は少ないかと思います。しかし、現在育てている植物を根元まですべて撤去し、廃棄物もきれいに取り除いた状態で買主に引き渡すのが通常の仲介の場合です。その点、建売業者に土地を買い取ってもらう形であれば、瑕疵担保責任の免責を受けられる可能性が高いでしょう。つまり、土地に不具合があっても建売業者が責任を負ってくれるということです。
その為、整地・造成をしない状態で土地をそのまま売却することもできます。ただ、しっかり整備して更地にした状態で引き渡せばすぐに家を建築できることから、建売業者の手間が減り土地の買取額を引き上げてくれるかもしれません。畑に植物や廃棄物が残ったままで買い取ってもらった場合は、先に述べたとおり建売業者に整地・造成費用をかなり取られることにもなりかねません。
ちなみに、ご相談者様の埼玉県のご実家は畑を所有されるくらいですから、まだ住宅地としての開発途上ではないかとお見受けします。前述のように、市街地としての開発を進めている地域では、都心に比較的近ければ地方の都市部よりも地価が高い場合もあります。
こうした地域性に加え、建売住宅という目的があり需要も見込めることから、提示された買取額に納得がいけば建売業者に土地を売却するメリットは大きいと考えます。
もう一つ注意すべき点としては、今回話を持ち掛けている建売業者は大手企業なのかということです。大手企業であれば担当部署が土地売却にかかる法律や各種手続きについて、詳しく説明してくれることでしょう。
土地を売る際には、売買契約書の作成や抵当権抹消登記などの手続きが必要となります。そしてこの手続きには、印紙税や抵当権抹消登記費用などが発生するのです。更には、売却金額から売却にかかる諸費用を差し引いたものは譲渡所得となり、所得税および住民税が課せられます。
ちなみに、所得税について説明すると、ご相談者様のご実家では長く畑を所有されていると思われるため、所有期間5年を超えると仮定します。この場合、所得税額は譲渡所得の15%、住民税は同じく5%です。これらを考慮し、畑を売ったときの売却額からどれくらいの利益が出るか計算しておきましょう。その利益に納得ができた場合には、畑を売ってご両親の老後の蓄えにするもの良い選択肢でしょう。
その他、長年畑として利用されていた土地ということで、登記上の記録と現状に差異が出ている場合が考えられます。そのため、隣の土地との境界線を明確にするべく境界確定測量が必要かもしれませんので事前に確認しておいてください。
買取額が相場より高ければ売却のタイミング
ご相談者様のご実家のように、趣味で家庭菜園を行っている畑であれば農地よりも高値で売れますし、農地転用などの煩雑な手続きを行う必要もありません。さらに都心に比較的近い埼玉県の土地で開発途上であると考えられ、建売業者もぜひ土地が欲しいと考えているはずです。そのため、比較的高値で売却できる可能性が非常に高いです。
ご相談者様のご両親にとって大切なのは、土地の実勢価格を調べたうえで建売業者が提示した買取額を比較し、その金額に納得できるかどうかです。もし納得ができればこの機会に建売業者に売ってもいいですし、その提示額が安ければ不動産一括査定サイトの査定額をもとに交渉することもできます。それでも買取額に納得いかなければ今すぐ急いで売る必要はないのではないでしょうか。