【不動産査定・不動産査定方法】これさえ読めば絶対に後悔しない

ブランド品やアクセサリー、中古車などの買取をしてもらうとき、多くの方が「査定」のステップを踏むことになります。査定とはその対象品を買い取る業者が「売却できそうな金額」を算出すること。査定金額はオークションサイトや、近隣の店舗で売買されたような類似品の成約価格などを参考に、業者ごとの基準を加味して決定されます。

なかでも不動産査定では、査定する対象物が土地・戸建て・マンションといった資産です。査定金額を算出するのは不動産仲介会社、あるいは買取業者になるでしょう。この場合の査定金額には、対象物件の近隣で売買された類似物件の成約価格・築年数・間取り・日当たり・立地条件が加味されています。

もちろん、経済状況や不動産市況も考慮しなければなりません。不動産市況には、人気エリア・物件タイプ・競合物件の建設状況など、外部的な要因が大きく関係します。

不動産査定が持つ意味

不動産査定は、売却の検討にあたっての「売出価格」を決定する重要なポイントです。適正な相場観を知るための最大のヒントとも言るでしょう。

査定方法にはいくつか種類があり、不動産仲介会社に依頼するだけでなく、売主自ら査定することも可能です。どのような方法で不動産査定が行われ、どういった基準・指標で査定金額が算出されているのか、大まかな概要をご紹介します。

不動産売却の方法

不動産査定の方法には、以下2つの方式しかありません。

①簡易査定(机上査定) 簡易査定とは文字どおり簡略的な査定内容で、机上査定とも呼ばれます。査定士が現地に足を運ぶのではなく、机上だけで済ませる方法です。査定の依頼をメールや電話、ネットで受け取った不動産会社が、対象物件の立地や間取り・階数(マンションの場合)、方角などを参考に査定価格を算出します。
②訪問査定(詳細査定) 訪問査定は簡易査定を前提として、実際に現地(対象物件)に訪問して査定する方法です。画像やマップではわからないような、最寄り駅からの経路、周辺状況、対象物件の劣化状況・付帯設備などを詳細に確認します。建築関係の資格を持った査定担当が調査することもあり、かなり精度の高い査定金額の算出が期待できるでしょう。

査定にかかる期間は?

簡易査定なら、当日から2〜3日もあれば結果がわかります。訪問査定に関しては、日程調整も考慮しなければなりませんが、2週間前後は考えておいたほうが良いでしょう。

査定価格の根拠は?

不動産査定で算出される価格の根拠は、主に3つの手法を組み合わせる形が一般的です。

査定方法

①取引事例比較法

②原価法

③収益還元法

それぞれの算出方法の内容と特徴については、のちほど「不動産会社による無料査定で使う3つの査定価格算出方法」にて詳しく解説します。

不動産査定時に確認したい3つのポイント

不動産査定を依頼する前に、チェックしておくべきポイントが3つあります。なかには準備に時間を要するものもあり、事前に知っているかどうかで気持ちの余裕も違ってくるでしょう。スムーズに査定を進めるために大切なことを、以下でご紹介します。

ポイント① 査定に必要な書類がそろっているか

査定をスムーズに進めるためには、可能な限り必要書類をそろえておいたほうが、精度も高くなります。時間のかかる書類から優先して取得していきましょう。

・対象不動産の登記簿謄本
・売買契約書
・重要事項説明書
・権利証
・固定資産税納税通知書

マンションの場合は管理規約、戸建住宅なら境界確認書などもそろっていれば、より正確な査定結果を期待できます。

ポイント② 物件の修繕やハウスクリーニングが必要か

不動産の査定を依頼する際に、多くの方が疑問を抱くのが修繕やハウスクリーニングについてでしょう。不動産を売却する際に、物件の不具合やリフォーム・修繕状況についてはきちんと告知しなければなりません。一方で査定前に修繕やハウスクリーニングが必須かと言えば、あまり必要性のないケースが大半です。

査定担当者が実際に不動産に訪問して、現状を考慮して対策を立てるほうが費用対効果は高くなります。値下げのポイントになるようなら、その時点でどういった対策が必要かを検討するのが現実的です。

ポイント③ 物件で気になっている重大な不具合がないか

不動産には査定担当者が見ただけではわからないような、売主しか知り得ない不具合・欠陥(瑕疵)があるケースも少なくありません。不具合や欠陥を把握している場合、売主は不動産会社や買主に告知する義務があります。知っていながら伝えなかったとなると、売却してから大きなトラブルに発展することもあるでしょう。

これは「瑕疵担保責任」と呼ばれる、売主が負うべき物件に対する責任です。気になっている物件の不具合については、隠さず事前に報告するようにしてください。

土地、戸建住宅の場合には、境界線や越境もトラブルになりやすい要因です。このため不動産の売却時には、必ず必要「境界確認書」や「越境覚書」などの書類が必要になります。

トラブルを黙ったまま売却することは許されず、査定の段階で相談しておくのがベターです。査定額や実際に売り出す際の売出価格にも大きく影響するため、早めに確認しておきましょう。

不動産査定には一括査定が便利

不動産査定には、簡易査定と訪問査定があるだけでなく、査定を依頼する不動産会社によっても結果はかなり違ってきます。適正な価格を知るためにも、できる限り複数の不動産会社に査定を出すのが一番です。ただし現実的には、なかなかそうもいきません。特に訪問査定は、資料をそろえたり日程調整をしたりと、手間も時間もかかります。

不動産会社との連絡が面倒で売却時期が延びてしまうよりかは、まずは気軽に利用できる不動産一括査定で資金計画の見通しを立ててみましょう。不動産一括査定サイトなら、不動産情報をネットで送信するだけで、複数社の査定額をまとめて受け取れます。

査定価格を信じすぎないよう注意

いくつかの業者に不動産査定を依頼すると、どうしても高い金額を提示してくる不動産会社に気持ちが傾きがちです。はじめての不動産売却ならなおさら、「この額で売却してくれる」と思い込んでしまうこともあります。しかしながら、不動産査定価格の扱いには注意が必要です。

のちほど詳しく解説していきますが、「査定価格=売却金額」ではありません。あくまでも売却対象不動産の現状と、査定に必要なデータを参考にして算出した予想に過ぎません。どんなに希望金額に近く、高い金額を提示されたとしても、売れなければ意味はないでしょう。業者側が「高額な査定価格で契約に結びつけ、あとから売却価格を下げよう」という考えを持っていないとも言い切れません。

「簡易査定」と「訪問査定」の違い

上述したとおり、不動産査定には2つの方法があります。それぞれ「簡易査定(机上査定)」「訪問査定(詳細査定)」と呼ばれ、どちらを選ぶかは売主の時間の余裕やタイミング、状況によってさまざまです。最も売主側のストレスがなく、まず多くの方が利用することになるのが簡易査定でしょう。

対象不動産周辺の現地調査をするわけではなく、極端に言えば資料のみで査定することになります。査定精度はあまり高くはありません。築年数が浅い都心のマンションや分譲住宅の場合には、簡易でもある程度の精度が見込めることもあります。

しかし戸建住宅は周辺の環境に影響されるケースも多く、個別性が高いことから簡易査定には不向きです。

一方の訪問査定は、不動産会社の査定担当者が実際に対象不動産に訪問して、現地周辺や物件を確認します。不動産仲介会社と媒介契約を締結し、売出価格を算出するにはほとんどの場合、訪問査定が必要です。すでに売却の意思が強いときは、こちらも視野に入れましょう。

簡易査定で使われる「過去の成約価格」

実際に不動産が売れたときの契約金額を、成約価格と言います。ここで重要になるのが「実際に売れた価格」という点です。「売出価格」と「成約価格」が同じになることは、なかなかありません。売出価格とは、売主と不動産仲介会社で相談して決める販売価格です。物件の立地条件や状態によって強気な価格設定にすることもありますし、その逆もあります。

しかしながら、売出価格はあくまでも売主側の希望です。広告活動を開始してもなかなか売れない場合などには、価格の変更が必要になるかもしれません。さらに、高い確率で買主側による値引き交渉が打診されてから、成約に至ることになるでしょう。

つまりは「売出価格から、ある程度価格を下げた金額」が、現実的な成約価格です。ここまでの内容を少し整理するために、不動産に関する価格をまとめました。

①相場価格 市場価格と言われ、対象不動産の類似物件がどのくらいで売れそうかの判断材料にもなる。
②査定価格 対象不動産の状態や条件を参考に、不動産会社が最も「高く」「早く」売れそうなラインで算出した金額。
③売出価格 査定価格を参考に、売主の希望額を考慮した価格。
④販売価格 売出価格から金額調整された価格。
⑤成約価格 『取引価格』と言われることもある、実際に売買契約が成立した金額。売主と買主との間で、値引き交渉などを経て成立した成約金額。

①の相場価格を参考に、②~④の過程を通じて⑤の成約価格は成立します。一方で①の相場価格は、⑤の成約価格がもとになって形成される金額とも言えそうです。

不動産の机上査定でよく利用される算出方法に、取引事例比較法があります。別名「成約事例比較法」とも呼ばれ、過去の成約から対象不動産の査定を行う手法です。たとえば所有している不動産が次のような条件に該当する場合、より精度の高い査定価格が期待できるでしょう。

・過去の成約事例が多数ある。

・売却対象不動産の状態・条件(築年数・立地・広さ)と過去の成約事例が近い。

・成約年月日が新しい過去の成約事例がある。

分譲数の多い大型マンションは、こういった条件に該当する可能性が高い傾向にあります。精度の高い査定価格を算出するのも、ある程度は簡単です。ただしマンションとは違い、土地や一戸建ての場合には対象不動産と同じような状態・条件の物件数が限定されるため、参考とする成約価格によってかなり査定額に誤差が出てしまうこともあります。

上記以外にも、売り出し時点で実際に販売されているライバル物件の動向も有効な判断材料です。大型マンションなら同じ物件内で売り出されている可能性があるほか、土地や戸建ても近隣での販売状況に強く影響される場合もあります。不動産を売却できるまでの期間は、3ヶ月~半年前後が一般的。その間に市場が変動することも少なくありません。

販売活動を開始してからも反響が悪いなど、なかなか成約に至らないようなときもあります。このような状況では、不動産市場の動向も考慮して販売価格の見直しが必要になるでしょう。

簡易査定と訪問査定のメリット・デメリット比較

いずれにせよ実際の売却活動を行うにあたっては、訪問査定で具体的な価格を知らなければなりません。そうなると「簡易査定は必要?」と疑問に感じる方もいるはず。もちろん簡易査定と訪問査定はそれぞれ違ったメリット・デメリットがあり、状況に応じて使い分けることが大切です。表で確認してみましょう。

査定方法 メリット デメリット
簡易査定(机上査定) ①メール・LINE・ネットなどから簡単に査定依頼ができて、特に用意しなければならないものもない。

 

②訪問日程の調整も必要なく、時間に縛られずにいつでも査定ができる。

 

③複数社にまとめて依頼が可能

 

④近所の人や知り合いに不動産の売却について知られる可能性は少ない。

 

⑤遠方の不動産など、すぐに鍵の移動などをすることができない物件でも査定が簡単。

①査定金額の正確性はあまり高くない。

 

②不動産会社が顧客を振るいにかけることもあって、かなり正確な情報を入力しない限りあまり意味がない。

訪問査定(詳細査定) ①実際に対象不動産を査定担当者が訪問するので、売主が気づいていない査定アップ要因や、マイナス要因がわかることもある。

 

②実勢価格(相場)に近い査定額がわかる可能性は高い。

 

③不動産の売却に関する疑問点があれば、詳しく質問できる。

①査定担当者との日程調整をし、時間を作る必要がある。

 

②事前にいくつかの書類を準備する必要があり、ストレスになることもある。

 

③複数社に依頼することは時間的にも難しい。

 

④周囲の人や知り合いに、不動産の売却を知られる可能性もある。

不動産鑑定士による有料査定と不動産会社による無料査定の違い

訪問査定を依頼しようと思ったとき、「不動産鑑定士」という言葉に出会うかもしれません。訪問査定には不動産鑑定士による有料査定と、不動産会社による無料査定があります。有料よりは無料のほうが、売主としては嬉しいと思うのが当然。2つの違いを理解できないと、わざわざ費用をかけてまで査定する必要性が感じられません。

では有料査定と無料査定で、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。まずは、不動産鑑定士による有料査定の意味についてご紹介します。

不動産鑑定士による有料査定

「不動産鑑定士」は国家資格で、3大難関資格のひとつとしても有名です。不動産鑑定の専門家として、土地・マンション・ビル・戸建てなど、あらゆる不動産の価値を鑑定することができます。不動産のプロというイメージもありますが、売買業や建築業の知識もあるかと言うと、そこまで手広い鑑定士は限定されるでしょう。

なかには不動産取引業も兼業しているような鑑定士もいますが、基本的には鑑定業がメイン。最もわかりやすい仕事と言えば、1年に一度、国から公表される土地の公示価格を鑑定しているのが不動産鑑定士です。

あるいは住宅ローンが支払えず、競売にかかってしまったような不動産を査定鑑定するのも不動産鑑定士。裁判所から指名されて業務を請け負うことになります。市区町村の固定資産税評価の実務を請け負うこともあり、公共的な仕事が多いことも特徴のひとつです。

その一方で、民間人が不動産の有料査定で鑑定士を利用する場合、そのシチュエーションはおおむね決まっています。

不動産鑑定士が必要なとき
文章

①関係会社間の不動産取引のとき
②遺産相続で揉めたとき
③賃料や立退料で揉めたとき

この3つが主な業務内容です。不動産会社による無料査定を理解するうえでも、有料でも不動産鑑定士が必要となるケースについて知っておくとイメージがしやすいでしょう。

①関係会社間の不動産取引のとき

一般的な不動産取引では、売主と買主で異なる思惑を持っています。

売主 = 不動産をできる限り高く売りたい
買主 = 不動産を可能な限り安く買いたい

このようになり、売主と買主で利害関係が対立していることがわかるでしょう。一方で、親族・家族で経営しているような同族会社と役員(代表取締役社長など)との間で同じような取引をした場合、以下のような状況が考えられます。

売主(親族) = 高くても安くても売りたい
買主(親族) = 安くても高くても買いたい

売主と買主の思惑が合致するとき、彼らだけで不動産価格をいかようにでも操作できることになります。同族会社の社長が自分の所有する会社へ不動産を売却したり、その逆で購入する際にも、都合良く不動産の価格設定をしたりができてしまうのです。

この取引は税金逃れや資産隠しに利用されることも多く、税務署の厳しい監視が入る場合があります。適正な取引価格の評価(裏付け)が必要となるでしょう。上場しているような会社なら株価対策も考えられます。関係会社間となれば売却金額を自由に決められるため、インサイダー取引になりかねません。

インサイダー取引においては、重要事実が公表される前に株式が売買されること自体に問題があります。取引の結果、買主が得をしようと損をしようと違法行為には変わりありません。このようなことを避けるために、第三者かつ不動産鑑定の専門家である不動産鑑定士が利用されます。

上記以外のシチュエーションで、関係会社間の不動産取引例としては以下の4つが考えられるでしょう。

関係会社間の不動産取引例

1.関係子会社の設立や増資における不動産の現物出資
(※裁判所が選任する検査役の調査に代用して、不動産鑑定士による査定書が有効)
2.M&A・関係子会社などの清算に伴う企業価値査定のとき、その関係会社が所有する不動産の時価算定
3.関係会社間の賃貸借契約
4.関係会社の財務諸表上の不動産表記や、株主に対する説明資料

税務署や銀行などにも、対象不動産の査定書(鑑定書)を提示することで、公正で客観的な価格であることを証明することが可能です。

遺産相続で揉めたとき

親族が亡くなって相続が発生したときに、問題となることも多い財産のひとつが不動産です。「半分ずつ」などと簡単には分けることができず、金額も時価(相場)になってしまうため、金銭にするにしても難しい部分があります。相続人が複数いるような場合は、それぞれの相続人が不動産に対する評価基準を持っていることもあり、遺産分割は難航しがちです。

また相続が発生した際に相談する「税理士」ですが、不動産のプロというわけではありません。不動産評価には詳しくないために、一般的に利用される「財産評価基準」という一定のルールに則って算出するケースがほとんどです。

しかしながら不動産取引において、この税理士が計算した「財産評価額」と時価(相場)が一致することはあまりありません。簡単な例をご紹介しましょう。

東京都内の住宅街で、50坪の一戸建て(土地・建物)を所有していた88歳の男性。彼が亡くなり、妻とその子どもの2人兄弟に相続が発生したとします。相続財産は不動産のみで、相続割合は妻が1/2、兄と弟で1/4ずつと仮定。こちらでは相続税を計算するうえでの基礎控除や、その他特例も含めず計算します。

この不動産について、相続税の計算を依頼した税理士は、財産評価基本通達から土地のみ「1億円」としました。建物のほうは築年数も古く、評価は0円ということです。妻5,000万円、子が2,500万円ずつと判断されました。

しかしこの不動産を市場で売却する場合、「1億4,000万は堅い」と予想されるようなことも実際にもあり得る話です。この場合、妻の相続額は7,000万円、子は3,500万円となります。現実には1億4,000万が不動産の時価だとしても、税理士としては相続税を下げる目的もあって、税金対策という観点から言うと一概に間違いだとは言い切れません。

では同じケースで、長男が将来的にこの家を相続し、弟は財産評価での価値に基づいて金銭を長男から受け取るという「遺産分割協議」が成立したらどうなるでしょうか。兄弟の仲が良ければ、それでも家を残すという意味で問題なく終わるかもしれません。

しかし財産評価で2,500万円だった金銭の授受が、相場(時価)なら3,500万円も受け取れたことになると、どうしても不公平が出てしまいます。トラブルに発展することも考えられるでしょう。

こうした複雑なトラブルを抱えているときに利用されるのが、不動産鑑定士です。相続を担当している弁護士・税理士から勧められることも多く、遺産相続で揉めて家庭裁判所を使うようなときにも利用できます。

③賃料や立ち退き料で揉めたとき

①②よりは珍しいケースになりますが、賃料が大きなテナントビルの賃料値下げ交渉や、道路の拡張工事・ビルの解体工事などで入居者を立ち退きしなければならないようなときに、不動産鑑定士が利用されることもあります。

基本的には、賃貸人と賃借人の交渉になるため、仲介した不動産会社が間に入ることのほうが多いでしょう。客観的な数値が必要だと判断したときに、間に入るケースが多いと言えます。

 

以上、不動産鑑定士による有料査定の必要性についてまとめてみました。不動産を売却する理由によって、不動産鑑定士による有料査定が必要なのか、不動産会社による無料査定で十分なのかはかなり違ってきます。もちろん費用を出せるというならば、不動産を売却するときに上記のような問題がなかったとしても、不動産鑑定士を利用することは可能です。

しかしながら一般人同士の不動産取引において、あくまでも査定は目安に過ぎません。費用対効果を考慮すると、民間取引で不動産鑑定士を利用する有料査定は、意味の薄いものと言えそうです。このことを理解したうえで、「不動産鑑定士による有料査定」と「不動産会社による無料査定」それぞれのメリット・デメリットを見てみましょう。

不動産鑑定士の有料査定と不動産会社の無料査定のメリット・デメリット

査定内容 メリット デメリット
不動産鑑定士による有料査定 ①客観的な第三者による査定となるため、交渉時には役立つ。

 

②税務調査などが考えられるような取引時にも、説明資料として利用できる。

①費用がかかる。

 

②査定に時間を要することもある。

 

③誰でも気軽に不動産鑑定士を使うということは困難。

不動産会社による無料査定 ①費用がかからない。

 

②不動産鑑定士による査定よりかは、時間がかからない。

 

③複数社に依頼することも簡単。

①裁判や公共的な資料としては利用できない。

不動産鑑定士による鑑定の料金相場

最後に、参考として不動産鑑定士が行う鑑定業務の費用相場についてご紹介します。簡易鑑定と正式鑑定、評価対象となる不動産の分類や条件、評価額によっても異なりますが、一般的な不動産鑑定料金の平均相場は下記とおりです。

鑑定評価額 土地(更地)/円 土地付き建物 /円 マンション /円
1,000万円以下  180,000  250,000  300,000
1,500万円以下  190,000  300,000  350,000
2,000万円以下  200,000  350,000  400,000
2,500万円以下  230,000  380,000  450,000
3,000万円以下  250,000  400,000  500,000
4,000万円以下  280,000  450,000  550,000
5,000万円以下  300,000  480,000  580,000
6,000万円以下  330,000  500,000  600,000
8,000万円以下  350,000  550,000  650,000
1億円以下  400,000  600,000  750,000
1億2,000万円以下  450,000  640,000  800,000
1億5,000万円以下  500,000  680,000  850,000

※あくまでも実費費用・消費税別での概算になります

不動産会社による無料査定で使う3つの査定価格算出法

不動産の鑑定は「不動産鑑定基準」という大原則に基づいて行われ、不動産鑑定士もこれを基本に鑑定業務をしています。上述した査定価格の参考材料となる「成約事例」なども、不動産鑑定基準がベース。戸建て・マンション・土地などあらゆる不動産の価値を知るために最も大切な指標です。

不動産の査定価格が何を根拠に決定されているのかと言うと、基本的には以下の算出方法のいずれか、もしくは組み合わせて決定されることになります。

①原価法

「原価」という言葉からイメージはつきやすいでしょう。仮に現在建っている建物を取り壊したとして、全く同じ建物を再建築するとしたらどのくらいの費用がかかるのか(再調達価格)を計算します。このとき計算された再調達価格から、劣化・老朽化したであろうぶんを差し引く(減価修正)方法です。

戸建てや工場など、土地ではなく建物部分を査定する際に利用されるケースが多くあります。不動産鑑定基準による計算式は、以下のとおりです。

原価法=再調達価格×面積(延床)×減価修正(残耐用年数÷耐用年数)

再調達価格や法定耐用年数は建物の構造によってそれぞれ違います。また、再調達価格もどの建築業者を使うかによって変わるうえに、仕入れ原価は人件費や災害などによってもかなり左右されるでしょう。あくまでも目安に過ぎません。例をあげて計算の仕方を見ていきます。

【例】

・築年数18年、面積(延床)150㎡の木造住宅

17万円×150㎡×(22-18)/22年=約460万円

原価法を適用した場合、今回の例では460万円前後と査定されることになります。

②取引事例比較法

「取引事例比較法」は、「簡易査定と訪問査定の違い」でも簡単にご説明しました。売却予定の対象不動産と、最も条件が近い不動産の過去における取引事例を抽出選択し、比較して算出する手法です。戸建てや土地よりは、マンションなど比較的類似の取引事例が多い不動産で多く利用されています。

過去の事例から選択された不動産の平均㎡単価を計算。その数字に売却対象不動産の㎡数を乗じて算出します。算出された値をベースにして、その不動産特有の個別事情を加減し、査定価格を決定することになるでしょう。例をあげながら算出方法を解説します。

【例】

★売却したいマンションA(3LDK 100㎡)

 

・マンションB(3 LDK 80㎡)

マンションA近隣(半径300m)で同じような築年数・階数・間取り条件で2,000万円

・マンションC(3 LDK 90㎡)

マンションA近隣(半径500m)で同じような築年数・階数・間取り条件で2,500万円

・マンションD(3 LDK 100㎡)

マンションA近隣(半径1km)で同じような築年数・階数・間取り条件で3,000万円

 

このような条件と仮定した場合、マンションB・C・Dの平均坪㎡単価は以下のように計算できます。

マンションB(2,000万円÷80㎡=25万円/㎡)・・・①

マンションC(2,500万円÷90㎡=27万円/㎡)・・・②

マンションD(3,000万円÷70㎡=30万円/㎡)・・・③

(①+②+③)÷3=約27万/㎡

マンションB・C・Dの平均㎡単価、約27万/㎡を売却したいマンションAの㎡数に乗じます。

約27万/㎡×100㎡=2,700万

単純計算で約2,700万円と算出できました。この価格をベースに、方角、駅からの距離、日当たり、周辺状況を加味して最終的な査定価格を算出します。

③収益還元法

3つある査定額算出方法のうち、「収益還元法」が最も初心者には理解しづらいでしょう。基本的には収益物件(賃貸物件)の評価に利用されることが多い算出法なので、そこまで理解を深めなくても問題はありません。

対象不動産を「貸す」と仮定して、将来的にどのくらいの収益を上げることができそうか、その収益力をベースに不動産の価値を算出する方法です。なお収益還元法のなかにも、「直接還元法」と「DCF法」の2方式があります。

直接還元法

不動産から発生する年間収益を、周辺地域の類似物件の利回りで割り戻して、不動産の価値を導く方法です。計算式は以下のようになります。

直接還元法=年間収益(賃料収入)÷還元利回り×100

【例】

・還元利回りが5%の地域

・年間賃料収入が120万円の物件

120万円÷5%×100=2,400万円

2,400万円が、直接還元法を利用して算出した不動産の価値になります。

DCF法

DCFとは「Discount Cash Flow(ディスカウントキャッシュフロー)」の頭文字であり、計算方法はなかなか複雑です。直接還元法よりも高い精度で算出できますが、不動産鑑定士がいる銀行系やコンサル会社でないと利用は現実的とは言えません。一般的には、直接還元法が多く利用されることになります。

以上が、不動産会社が無料査定で使う査定価格の算出方法です。実務的には②の取引事例比較法が最も利用されていて、それ以外をベースに算出することはほとんどないでしょう。

一般の不動産取引は、実勢価格(相場)に大きく影響されます。不動産を「高く」「早く」売却するためにも、目安を常に意識しておくことはかなり重要です。

不動産査定に必要な準備書類とそのポイント

不動産査定時には、いくつかの準備書類が必要になります。簡易査定と訪問査定では書類の内容が違っており、そろえることを面倒に感じる方も多いかもしれません。簡易査定のほうが精度は落ちるぶん、必要書類も少なく済みます。「まずは手軽に査定を依頼したい」という場合、書類の少ない簡易査定を試してみると良いでしょう。

ただし机上査定なら書類が少なくとも問題ありませんが、訪問査定を依頼する場合にはそうもいきません。あまりに書類に不足があると、せっかくの訪問査定でも正確な査定金額は期待できないでしょう。あらかじめ余裕を持って準備書類をそろえておいたほうが、適正な資産価値を知るためにも効率的です。

また用意すべき書類のなかには、手に入れるまでに時間がかかるものもあります。できるだけスムーズに不動産査定から売却まで進められるよう、書類をリスト化して、手元にあるもの・ないものを把握してみてください。

こちらでは「戸建て」「マンション」それぞれの「簡易査定」「訪問査定」に必要になる書類と、その重要度、ポイントをご紹介します。

戸建て売却の簡易査定に必要な準備書類

  :あれば良い
★★ :あったほうが良い
★★★:絶対必要

準備種類 ポイント
①登記簿謄本  簡易査定時には、古い謄本でも構いません。不動産を購入後に、名義や持ち分が変更したなどの変更登記がなければ、購入した当時の写しで十分です。

査定を依頼した不動産会社が事前に用意していることもありますが、自分でも最新の登記情報を確認しておいたほうが安心でしょう。

②権利証(登記識別情報通知)の写し  売買契約時には原本が必要となりますが、査定時なら写しでも構いません。
③売買契約書 ★★ 所有している不動産を売買したときに受け取った契約書です。あったほうが何かと便利でしょう。紛失していても、不動産会社に再度発行をお願いできます。
④建物の図面等(建築設計図書・工事記録書) ★★ 登記簿や売買契約書ではわからない、設備状況を調べるのに便利です。
⑤土地測量図、境界確認書  簡易査定時には必須ではありませんが、担当者が状況を把握しやすくなります。
⑥建築確認済証か検査済証  簡易査定時には必須ではありません。
⑦住宅性能評価書  簡易査定時には必須ではありません。
⑧耐震診断報告書  登記簿謄本等で築年数がわかれば、この書類も査定時に必ず必要というわけではありません。
⑨ローン残高証明書及びローン返済予定表 ★★ 簡易査定時の段階であると便利です。

マンション売却の簡易査定に必要な準備書類

  :あれば良い
★★ :あったほうが良い
★★★:絶対必要

準備種類 ポイント
①登記簿謄本  戸建て同様、簡易査定のときは古い謄本でも問題ありません。マンション購入後に変更登記がなければ、購入当時の写しで十分です。

 

ただしマンションの場合には、繰上げ返済で抵当権が変更になっていることもあります。新しい登記簿謄本を取得したほうが良いケースもあるかもしれません。

②権利証(登記識別情報通知)の写し  簡易査定時なら必須ではありません。売買契約時までに原本を用意しておきましょう。
③売買契約書 ★★ 簡易査定時でも、購入当時の売買契約書があると便利です。
④建物の図面等(建築設計図書・工事記録書) ★★ 簡易査定時でも、建物に関する資料があると情報入力などが簡単になります。
⑤管理組合規約 ★★ マンション特有の管理規約も必須ではないものの、準備しておくと重宝するでしょう。
⑥重要事項説明書 ★★ 管理費や修繕積立金の額、大規模修繕工事計画などの内容がわかる書類です。簡易査定時でもあったほうが良いでしょう。
⑦住宅性能評価書  もしすぐに見つからないようなら、簡易査定時には間に合わなくても問題ありません。
⑧耐震診断報告書  謄本等で築年数がわかれば、必須ではありません。
⑨ローン残高証明書及びローン返済予定  借り換えや、繰上げ返済を検討しているならあったほうが便利です。

戸建て売却の訪問査定に必要な準備書類

  :あれば良い
★★ :あったほうが良い
★★★:絶対必要

準備種類 ポイント
①本人確認書類(売主)★★★ 詐欺やなりすまし防止で、近年はコンプライアンスも厳しくなっています。単独所有なら、本人の身分証明書(運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)が必要です。

 

共有名義になっているようなケースでは、委任状が必要となることもあります。依頼する不動産会社にあらかじめ確認したほうが良いでしょう。逆に言えば、本人確認をせず査定をするような不動産会社には注意が必要です。

①登記簿謄本 ★★ 訪問査定時には新しい謄本を用意しておくと安心です。査定を依頼した不動産会社が事前に用意していることもあります。

 

発行手数料は書面請求が600円、オンライン請求/送付が500円、オンライン請求/窓口交付が480円。費用がかかるため事前に不動産会社に確認しておいたほうが損をしません。

②権利証(登記識別情報通知)の写し  売買契約時には原本が必要となりますが、訪問査定時なら写しでも構いません。
③売買契約書 ★★ 売却対象不動産の売買契約書は、訪問査定時までに用意しておくと査定がスムーズになります。なくしてしまった場合は、媒介した不動産会社に相談しましょう。
④建物の図面等(建築設計図書・工事記録書) ★★ 登記簿や売買契約書には記載のない設備状況を調べることができます。訪問査定時にあれば、査定時間が短く済むかもしれません。
⑤土地測量図、境界確認書 ★★ 訪問査定時には必須ではありませんが、境界・越境にトラブルがある場合、事前に不動産会社に伝えておく必要があります。越境の覚書でも構いません。

 

公図、地積測量図、登記情報は法務局に保管されています。

⑥建築確認済証か検査済証  訪問査定時に必須というわけではありません。
⑦住宅性能評価書  訪問査定時には必須ではありません。
⑧耐震診断報告書  登記簿謄本等で築年数がわかれば、耐震診断報告書は必須ではありません。一方で、旧耐震基準(1981年6月1日)以前に建築されたような古い物件だと、この書類がなければ売買価格はかなり低くなります。売却もしにくくなるので注意しましょう。
⑨ローン残高証明書及びローン返済予定表 ★★ 用意しておくと、担当者と売買契約の相談をする際にも便利です。

マンション売却の訪問査定に必要な準備書類

  :あれば良い
★★ :あったほうが良い
★★★:絶対必要

準備種類 ポイント
①本人確認書類(売主) ★★★ マンション単独所有の場合、本人の身分証明書(運転免許証・パスポート・マイナンバーカードなど)が必要になります。
①登記簿謄本  できることなら新しい謄本を用意しておくことをおすすめします。査定を依頼した不動産会社が事前に用意していることもあるため、確認しておきましょう。

 

購入後から名義や持ち分の変更がなければ、購入当時の写しでも構いません。ただしマンションは繰上げ返済で抵当権が変更になっているケースも多く、新しい登記簿謄本を取得したほうが安心です。

②権利証(登記識別情報通知)の写し  売買契約時までには原本が必要となります。訪問査定時なら写しで十分です。
③売買契約書 ★★ 購入当時の売買契約書は、あったほうが便利です。査定担当者も売主に余計な質問をせずに済むため、査定もスムーズになります。再発行はできません。
④建物の図面等(建築設計図書・工事記録書) ★★ 簡易査定の段階でも、建物に関する資料があると情報の入力などで混乱がありません。
⑤管理組合規約 ★★ マンション特有の管理規約も、できる限り準備しておきましょう。現本は管理組合もあるため、紛失した場合は連絡してみてください。
⑥重要事項説明書 ★★ 管理費や修繕積立金の額、大規模修繕工事計画などの内容がわかる書類です。あると査定がスムーズになります。再発行は不可能です。
⑦住宅性能評価書  紛失してしまった場合も、必須ではないため問題ありません。
⑧耐震診断報告書  謄本等で築年数がわかれば、特に必要ありません。居住用の分譲マンションなら、すでに耐震対策をとっているケースが大半です。

 

ただし旧耐震基準(1981年6月1日)以前に建築された古いマンションは、耐震診断報告書がないと売買価格はかなり低くなり、なかなか売却もできません。

⑨ローン残高証明書及びローン返済予定  借り換えや、繰上げ返済を検討しているならあった方が便利です。

以上、ご紹介した書類以外にも「固定資産税納税通知書」「固定資産税評価証明書」があると、不動産の現況や査定の参考になることもあります。

簡易査定・訪問査定の共通書類

準備書類がやたらに多いと感じるかもしれませんが、簡易査定と訪問査定で共通している書類もあります。そういった共通書類から優先して取得していくのも、ひとつの方法です。

・登記簿謄本

法務局窓口あるいはオンライン申請が可能です。

 

・権利証(登記識別情報通知)の写し

登記簿謄本と同様、法務局窓口かオンラインで再発行できます。

 

・売買契約書

再発行はできません。

 

・建物の図面等(建築設計図書・工事記録書)

再発行はできません。

 

・住宅性能評価書

検査機関での再発行が可能です。

 

・耐震診断報告書

再発行はできません。

 

・ローン残高証明書及びローン返済予定表

ローンを組んだ金融機関にて、無料で発行してもらえます。

 

※なお住宅性能評価表の再発行には別途書類が必要になることも多く、申請から再発行までに時間を要する場合もあります。期間に余裕がなければ、取得は諦めてしまっても問題ありません。

じつは意味なし?不動産査定前の3つの対策

訪問査定では不動産会社が現地を実際に訪れることになります。このとき「掃除やハウスクリーニング、リフォームをしておいたほうが、評価が高くなるのでは」と考える方も多いでしょう。査定額を1円でも高くするために、こういった対策はたしかに有効と言えます。

しかし結論として、査定前にこれらの対策をしたからといって、100%査定金額が上がるとは言い切れません。また高い査定額が出たとしても、それはあくまで売出価格を決める際の目安です。その金額で売却できるとは限らないうえに、かえってリフォーム費用のほうが高くつくリスクもあるでしょう。

不動産仲介会社が無料で行う査定には、仲介者としての営業的な意味合いが含まれています。このため必ずしも実勢価格に近いかと言えば、微妙なところです。「査定時の印象を良くして媒介契約をもらいたい」という、営業担当者の個人的な感情に影響されてしまう可能性も大いにあります。

査定前の対策で労力や時間、費用がかかることをふまえ、冷静に費用対効果を冷静に判断していくことが大切です。不動産査定前に売主を悩ませる、3つの対策の必要性について解説していきます。

リフォーム

不動産査定前のリフォームは必要ありません。査定は不動産の現況をベースに、最も適した計算方法で価格を算出して「現在どのくらいなら売却できそうか」を知るための作業です。不動産の現状を考慮したうえで、リフォームをしたほうが売却金額を上げられそうなとき、あるいは売却までの期間が短くなりそうなときに実施したほうが建設的です。

査定段階で媒介契約を結ぶ不動産会社が決まっていることは少ないものの、信頼できる不動産会社に相談をしてからリフォームの必要性を考えても遅くはありません。リフォーム内容が必ずしも買主の希望に合うとは限らず、かけた費用に見合った売却金額になる保証もないでしょう。

リフォームに費用を割くよりも、そのぶん値下げをしたほうが結果的にはプラスになるケースも多くあります。どうしても気になるという場合、安価に済むような簡易リフォームにとどめることがポイント。シミや汚れ、剥がれの目立つ壁紙、床材の張り替えなどがあげられます。「自分好みにリフォームをしたい」という売主も多いため、高額をつぎこむ必要はありません。

もちろん構造上の問題があるような物件なら、それなりのリフォームも検討します。湿気で床が抜けている、窓からの隙間風、ドアの開閉がしにくい場合などです。いずれにせよ売却前のリフォームに関しては慎重な判断を心がけてください。

修繕

不動産査定前の修繕は、可能な限りやっておいたほうが良いでしょう。とはいえこちらも、必ず必要というわけではありません。売主にとっての不動産売却は、一生に何度も経験するようなことではなく、ちょっとした不備でも気になります。しかし不動産会社にしてみれば、毎日のように査定をしているため不具合や傷・汚れなどはあまり大きな問題にならないのです。

修繕が必要になるのは、実際に販売活動を開始する際の画像撮影や、内見が入るようになったとき。査定担当者よりは、買主に与える影響を考えて検討すべきでしょう。

あまりにも大幅な修繕が必要な物件なら、内見希望者が現れたとしても印象はかなり悪くなることが予想されます。事前に告知していたとしても、値下げ交渉の材料となってしまうケースは珍しくありません。なかなか買い手がつかない場合もあります。

結論として、修繕に関して査定前の対策は必要なく、実際に売却活動を進めていくときには前向きに検討しましょう。費用は最低限で構いません。たとえば壊れた設備を修理する、汚れのこびりついたお手洗いを新品にする、傷みのひどい畳のみ張り替える、剥がれや汚れの目立つクロスを部分的に替えるなどの作業が考えられます。

どの範囲まで修繕したほうが良いのかは、仲介を依頼した不動産会社の担当者に尋ねてみてください。最終的に大切になるのは、担当者が「この程度なら成約が可能」と判断できるかどうかです。

ハウスクリーニング

ハウスクリーニングに関しても、査定前よりは査定後、実際の不動産の販売活動を開始する際に必要になります。「人は見た目が9割」とも言われますが、それは不動産でも同じことです。物件の購入希望者(買主)の物件に対する第一印象は、成約率や成約価格に大きく影響を与えます。

査定前なら、ハウスクリーニングはほとんど必要ないでしょう。もちろん汚いよりはキレイなほうが、査定担当者への印象も変わるかもしれません。しかし査定はあくまでも、どのくらいの金額で不動産が売れそうか目安を知るためのもの。実際に物件を見て購入するのは、不動産会社の査定担当者ではなくエンドユーザーです。

もちろん査定前にも物を整理する、ホコリは取るなど最低限の掃除は行っておきましょう。実際に売却を仲介する不動産会社が決まって販売活動を開始する前に、専門業者にハウスクリーニングを依頼します。特に水回りは生活感が出やすく、素人には落としにくい頑固な汚れがたまる場所です。

このことから浴室、洗面台、お手洗い、キッチンを中心にハウスクリーニングを依頼すると、費用対効果を見込めます。逆に言えば、それ以上のクリーニングは必須ではありません。水回りの清掃を業者に依頼した場合の費用目安は5万円~10万円程度。高いと感じるかもしれませんが、のちのち「バス・トイレが汚いから」と数十万~数百万円の値引き交渉をされることもよくあります。

戸建てやマンションなどの建物ではなく、土地売却の場合には、ゴミの撤去・雑草除去くらいで十分です。なお売り出し前にハウスクリーニングを行ったとしても、内覧時までに汚してしまっては無意味です。数万円の費用を無駄にしないためにも、クリーニング後はこまめな掃除を心がけましょう。

不具合や構造上の問題は直さなくてもいい?

リフォームや修繕をしなくても、不動産を売却に出すことは可能です。しかし不動産に重大な問題があることを知りながら、それを不動産会社や買主に黙っていた場合、あとから売主が責任を問われることになります。冒頭でもご紹介した、「瑕疵担保責任」と呼ばれる売主の義務です。

責任を負うことになる期間は、引き渡しから2~3ヶ月が一般的。万が一この契約期間中に瑕疵が見つかれば、物件の補修や損害賠償、契約破棄にも応じなければなりません。もちろん目で見てわかるような不具合は、訪問査定の時点で不動産担当者にチェックされます。ただ「住んでみないとわからない」ような隠れた問題は、あらかじめ告知するか、修繕するかの対処が必須です。

査定額が不動産会社によって異なる理由

全く同じ物件を査定したとしても、依頼した不動産会社や査定担当者によって、査定額に大きな差が出ることがあります。「不動産会社による無料査定で使う3つの査定価格算出法」内で、不動産の査定額を算出する方法には3方式あると解説しました。この原価法、取引事例比較法、収益還元法という方式の違いが、査定額に差を生むひとつの理由です。

さらに不動産の売買価格は、「売主」「買主」双方の合意があってはじめて成立することになります。言い換えると、売却予定の対象不動産がある地域で、販売実績・顧客が多い不動産会社や査定担当者なら、強気の査定価格になっても不思議ではありません。

また査定額は、売却時期にも大きく左右されます。入学や就職を控えた1月~3月、企業の異動が多い6月前後だと不動産を探す買主も増加。査定額が強気でも売れる可能性はあります。

一方で現実的な話として、簡易査定を依頼しただけでは不動産会社側も顧客になるかわからないので、適当に査定額を算出して回答することも珍しくありません。あるいは営業につなげるために、相場よりも数字を盛って査定する可能性も十分考えられるでしょう。

訪問査定で査定額に違いが出るとしても、不動産会社や担当者の営業力、買い希望の顧客数の多さに影響されることは説明したとおりです。もちろん媒介契約を取りたいがために、査定額を高めに設定して売主に期待させてしまうようなこともあります。

不動産会社による査定にもベースとなる算出方法はあるものの、不動産鑑定士による有料査定と違い、でたらめな査定額を算出したところでペナルティーがあるわけではありません。無料査定ということもあり、不動産会社側も媒介契約をとるための利用材料という意味合いも強くあります。

提示された査定額が営業のためなのか、実際に売れそうな価格なのかの判断は、媒介契約を結んで実際に販売活動をしてみないとわからないもの。そうした不安要素をできる限り避ける意味も含め、不動産会社選びは慎重にする必要があります。

このとき不動産一括査定などを利用して、多くの業者を比較してみるのも有効な手立てです。数が多ければ多いほど、対象不動産の平均的な査定額を読み解きやすくなるでしょう。

不動産査定額はあくまでも売却予想価格

自分にとっては思い入れのある大切な資産でも、査定担当者や買主は不動産に対しそのような思いはありません。手放すにあたって希望額を提示したとして、その金額で売れるとは限らないでしょう。もしかすると希望よりも高く売れるかもしれませんし、価値を見出してもらえずタダ同然になり、それでも買い手が見つからないケースもあります。

不動産の査定額は、あくまでも現状で考えられる「売却できそうな金額の上限」です。はじめに不動産一括査定サイトなどの簡易査定を利用して、複数の不動産会社に査定の依頼をすると、どうしても高い価格を提示した会社に良い印象を持ってしまいます。しかし「この業者なら一番高く売ってくれる」と、査定額を過信しすぎるのは考えものです。

「査定価格=売却価格」にならないことは、前項「不動産査定額が不動産会社によって違う理由」で解説したとおり。契約をとるための材料にされているケースも考えられます。

一般的に、売主の売却希望額は相場よりも高くなりがち。不動産会社から提示された査定価格が、低い金額よりも高いほうが嬉しいと感じるのも当然です。もちろん査定額に根拠があって、販売実績がある不動産会社なら問題はないでしょう。ただし査定額だけを鵜呑みにして契約先を決めてしまうのは、後悔する要因になります。

不動産取引には公開されている大きな市場があり、高い確率で買主が現れる「価格」はわかっても、いつ売れるかという「タイミング」まではわかりません。立地条件・間取り・築年数などが似ていようが、不動産において全く同じ物件は存在しないという特有の性質があります。このため同じように見える物件でも、成約金額はかなり違っていて不思議ではないでしょう。

不動産査定で最も重要と言えるのが、「査定額がそのまま手に入る」のではなく、売却活動を開始するうえでの「売出価格の参考材料」と考えることです。低い価格設定にすれば、売却期間を短くできる可能性は高まりますが、リフォームや修繕、ハウスクリーニングなどの売却に付随する諸費用を考慮すると損してしまうこともあります。

反対に高い価格設定だと、当然ながら買主は限定され、売却までの期間が延びるかもしれません。最終的には、売主が許容できる「値段の高さ」「売却までの早さ」のバランスが問題です。査定額はあくまでも参考に、信頼できる担当者と一緒により高く・早く売却できそうな売り出し価格を決定しましょう。

無料査定と言えば不動産一括査定サイト

「所有不動産を売却しようと思っている」「まずは資産価値を知ってから売却か、貸すかを決めたい」という方は、はじめに簡易査定(机上査定)を行うことになります。しかし気になる不動産会社を1社ずつ探して、連絡をとり、不動産の情報をその都度送付するのは手間も時間もかかるでしょう。

このとき便利なのが、不動産一括査定サイトです。複数社にまとめて査定を依頼でき、また匿名性が高いためストレスもありません。サイトによって登録している不動産会社数はさまざまですが、数百社~1,000社というところが一般的。なかには「信頼できる大手数社のみを厳選」といったサイトもあります。

不動産一括査定サイトを利用して所有不動産の情報を送信すると、条件に合う不動産会社が絞り込まれます。そのなかから気になる業者を選定し、まとめて査定をお願いできるという仕組みです。サイト利用に料金が発生することはありません。簡易査定である以上、精度の高さは見込めないものの、査定価格の平均値を出すだけでも目安がわかりやすくなります。

1社に査定依頼をするだけでは不十分?

しつこい営業連絡が心配だからと、1社あるいは数件だけの査定・売却相談を考える方もいるかもしれません。しかし不動産売却の経験が浅い場合、その査定金額が本当に相場に近い、適正なものなのかは判断がつかないでしょう。

ときには売主の足元を見るような価格を提示したり、相見積もりで他社が提示してきた価格より「もっと高く売れる」と答えたりするような会社もあります。不動産の資産価値を無駄にしないためには、最低でも10社以上に査定依頼を出すことが基本です。

・所有不動産のあるエリアに強い会社

・集客力のある大手

・所有不動産から近い会社

・宅建業(宅地建物取引業)免許を取得している

・仲介手数料の安い会社

上記のようなポイントを意識して、不動産会社を選定してみてください。ちなみに不動産一括査定サイトには利用者が自由に希望などを記入できる箇所があります。ここに「連絡はメールのみ」と記入しておけば、忙しい時間帯に電話をかけてこられることはまずありません。売却に向けた第一歩として、ぜひ活用してみてはいかがでしょうか。